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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第三章 若葉
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67.二度あることは

「それでどうなんだい?」


 黙り込む僕に原色おじさんが畳みかけてくる。


 ――僕のユニークスキル『進化樹』は、別に秘密にしているわけでもなんでもない。

 村の皆なら全員知っているし、このギルドでも幾人かは知っている。


 ――でも。


 このおじさんにバレたら酷い目(原色ぐるぐる)に遭いそうな気がする。

 いや。必ず遭うに違いない。


 (こころ)の中で葛藤する僕に。

 そんな僕に一筋の光を与えてくれたのは――意外にも原色おじさん自身だった。


「鑑定を使える人物は――この辺りだと西都ウィスディンぐらいにしかいないはずなんだが」


 おじさんが顎に手を当てている。

 僕は――下を向くことで、おじさんから視線を外した。


『――そうなんです。理由は言えませんが秘密裏に鑑定してもらったんです』


 ――思いっきり嘘をついた。

 なぜだか胸がチクチクと痛む気がする。


 だけど――これで完璧だと思った。




「こらリーフェ! 嘘ついちゃ駄目でしょ!」


 生真面目なユニィ(通訳)のことはすっかり忘れていた。



 ――――――


「――というわけで、リーフェストには『進化樹』のユニークスキルが使えるんです」


 結局――『進化樹』のことは正直に話すことになった。

 僕はそっと原色おじさんの方を見る。


 真竜族(ドラゴン)の前の子牛。牙狼の前の羊。僕の前のおやつ。

 今の僕はそんな気持ちだ。


 だけど――


 意外なことに。

 おじさんは目を瞑ったまま沈黙を守っている。


 ――もしかして寝たの?

 そう思ってたら、目の端に光るものが見えた。


 なんだろう?

 近寄って確認し――


「うおおおぉおぉっ!!!」


『うわぁあああぁっ!!!』


 叫び声を上げたおじさんが、突然僕の前脚をがっしり掴んできた。

 僕も思わず叫んでしまった。


「これこそ運命! 君こそが我が運命の(ひと)! さぁ、一刻も早く私と契約(友誼の儀)を!」


 ――いやいや。この人なに言ってるの? そりゃ周りもざわつくよ。


 びっくりして叫び声を上げてしまったけれど――僕は意外と冷静だった。

 さっきから何度も同じパターンが繰り返されているので、だんだんおじさんの取り扱いに慣れてきたのかもしれない。


 僕は冷静に分析する。

 これは――また無駄に興奮しただけだね。たぶん。

 そして、いつのまにか周りに脚竜族(ざわつきのもと)が増えているね。きゃあきゃあ聞こえる。


「駄目ーっ!」


 ――ユニィはまだ慣れないみたいだけど。




 ――15分後。

 僕の目の前には――無言で頭を下げ続ける原色おじさんと、ほっぺの膨らんだユニィがいた。


 とりあえず、こっちの方が優先かな?

 まず僕はユニィに語り掛けることにした。


『怒ってくれるのは嬉しいんだけど――そもそも、2重契約とか無理だから』


 そうなのだ。脚竜族が友誼の儀を結ぶことができるのは生涯一度きり。

 一度ユニィと契約した僕は、他の人とは契約できないのだ。


「そう――なの?」


 そうなのだ。僕は頭を縦に振る。

 ちなみに、人族側が二竜(ふたり)目の脚竜族と契約した場合は、一竜(ひとり)目の脚竜族との契約は上書きされて消えてしまう。

 どちらにしても二重契約は無理なのだ。


『多分、おじさんも知ってるはずだよ。研究者なんだし』


 おじさんの背中がビクってなる。

 聞こえてないはずだけれど――雰囲気で察してくれたのかな?


『ねぇ。もう許してあげようよユニィ』


 僕はそう言いながら、口の端を微かに上げた。

 ラズ兄ちゃんから聞いた『余裕の笑み』ってやつだ。

 自信満々にやるのが()()らしい。


「そう――だね。そうだよね」


 ユニィから伝わってくる感情から――怒りと焦りの部分が消えていくのを感じる。


 これでユニィは大丈夫だ。

 あとは――


「顔を上げてください。えーと――()()()さん」


 ユニィの声に原色おじさんが顔を上げる。

 本日三度目の反省顔だ。もう見慣れちゃったよ。


 顔を上げたおじさんが――意を決して口を開いた。

 だけど。声を出すその前に。


「それはそうと――お名前をまだ聞いていませんでしたね。私はユニィ。彼はリーフェストです。あなたのお名前を教えてもらえますか?」


 ――そういえばそうだった。

 おじさん、初めから興奮してて名乗ってなかったね。

 僕は気にしてなかったけど。



 ――――――


「それでは。またいつか会える日を」


 原色おじさん――名前はもう忘れた――が一礼して去っていく。


 ――うん。もうお腹いっぱいなので遠慮するよ。


 僕達はその背中を見送った。



 あの後――僕達とおじさんはお互いの情報を交換した。

 こちらからは6回進化と5回進化のクラス名と、そこに至るまでのツリーを。

 おじさんからは、脚竜族の発祥は南の大陸だっていう研究結果を教えて貰った。


 そして他には――


『さっきの話って、本当なのかな?』


 僕はユニィに問い掛ける。


「そうだよね。私達ちゃんと契約できたもんね」


 ユニィが答える。

 ユニィが言っているのは、おじさんの語った――


()()()()()()()()()()()()()()


 ――この話の事だろう。

 子竜(こども)の場合『友誼の儀』自体が発動しないんだそうだ。


 ――まぁ、そんなわけがないんだけど。

 確かに成竜(おとな)になるまで使わないようには言われてたけど――ちゃんと発動したし。


 その事を指摘したら、おじさんが何故か神妙な顔になっていたんだよね。


 うん。そうだねユニィ。

 確かに気になる話だね。

 だけど――


『違うよ! 赤と黄色の服を着ると、女竜(おんなのひと)が寄ってくるって話だよ!』


 そう。やたら脚竜族のギャラリーが多いなーと思ってたら――あの派手な服の効果なのだそうだ。

 しかも、()()()()()()()()()()らしい。



 今度お金(深山芋)が手に入ったら――赤と黄色の布を買ってこなくちゃね!


 本エピソードは次回まで。

 続けて芋探し編となります。

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