7.暫しの別れ
「ありがとうございました」
ユニィが何とか事情を説明し、母親のアリアさんが落ち着いた後。
僕らはユニィの家の前に立っていた。
アリアさんとユニィと。それから何故かユニィの足に抱きついているソニアと。
僕には家の中は狭いからなんだけど――アリアさんは寝てなくて良いの?
「でも、この様なものを頂くわけには」
僕が疑問に思っていると、アリアさんが落ち着いた声で薬を差し出す。
『えっ? 薬は飲まないと。流行り病なんでしょ?』
ユニィがサッと目を逸らす。
――え?
僕の声は聞こえないはずだけど、ユニィの態度からアリアさんが何かに気付いたようだ。
「ユニィ、あなた――」
「あの――ユニィが何を言ったか分からないのですが――私はただ風邪を引いただけで、流行り病ではありませんので――」
――えー?
ユニィの方を向く。俯くユニィ。
どうやら本当のようだ。ユニィが小さな体をさらに小さくするように、肩を窄めて俯いている。
――でもね。ユニィ。
『良かったね。お母さんが流行り病じゃなくて』
ユニィの肩が震えている。鼻をすする音が聞こえる。
「ごめんなざい」
激しすぎるその思い込みと早すぎるその行動に、思わず苦笑する。
――分かっているから。ユニィの気持ちに偽りなんて無かったことを。その気持ちが。その小さな体を動かしていたことを。
だからね――
『1週間後まで絶交だよ!』
そう言って、踵を返す。
絆を結んだことに、不思議と後悔はしていない。
――だけれども。だけれども。ね。
――うん。少しは反省してもらわないとね!
僕の6回進化を返してよー。
なんてね。
――――――
「これ。どうしよう」
私達の前には、薬の瓶が残っている。
流行り病以外にも効くらしいけど、ただの風邪に使うには勿体ない代物だ。
しかも――
「カロンおばさんのお手伝いをする約束しちゃったし」
そういう意味では、既にこの薬は私とリーフェのものだ。まぁ、実際のところは働くのはほとんどリーフェなんだけど。
それにしても、リーフェの最後の言葉。
嫌われたのだとばかり思っていたんだけれど、お母さんに言ったら、
「仲が良いのね」
って笑われちゃったし。
リーフェ。怒ってるのかなぁ。
――――――
その後の話。
湖――場所はユニィの記憶で分かった――に戻った僕は、めっちゃ怒られた。
はぐれたこともそうだけど、明らかに何かあったことがバレたからだ。
まぁ、見た目が変わっていればバレるよね。
家に帰った僕は、そこでやっぱりめっちゃ怒られた。特に母竜に。
僕が言いつけを守らず、友誼の儀を結んでしまったからだ。
父竜は、口では怒っていたけれど、何だか嬉しそうな顔をしていた。
そして、村では前代未聞の子供の進化者の取扱いを巡って、激論が交わされることとなる。
即ち、大人として認めるかどうかだ。
結局、母竜の『どう見ても子供でしょ』の一言で終わったらしいのだけど。
――その顛末を僕が聞くのはもう少し先のお話。
だけど、この時母竜から僕に告げられたのはたった一つだけ。
『明日から2週間謹慎ね』
――ごめんユニィ。
2週間になっちゃった。