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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第三章 若葉
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66.研究者

「お客様がいらしてますよ」


 運送ギルドへ戻ると、猫お姉さんが僕達に声を掛けてきた。


「お客様――ですか?」


 ユニィが聞き返す。

 すると、猫お姉さんは――僕をナイフのような冷たい目で見た。


 ん? また僕何かした?

 この前注意されたから、最近は朝の点呼(脚竜会の活動)も静かにやってるよ?


「御用があるのは、こちらのリーフェストさんとのことです」


 猫お姉さんの言葉に驚く。


『僕に? 誰? 女竜(おんなのひと)?』


 猫お姉さんには聞こえないんだけど、思わず聞き返してしまった。

 友達ならともかく、お客様なんて心当たりがなさすぎる。

 

 ――そんな僕の困惑を察して、ユニィがすぐにフォローしてくれた。


「どのような方ですか?」


「――研究者とおっしゃってました」


 猫お姉さんの言葉に再度驚く。

 当然だけど、研究者の知り合いはいない。

 研究者っぽいといえばマーロウぐらいだけど――猫お姉さんの口ぶりからすると、多分脚竜族じゃないと思う。


 だとすると――


 僕はゴクリと唾を飲み込む。


 ――ついに。ついに――ついに。

 僕の()()()()()()を調査に来たんだね。


 『ポケット』に『サーチ』。

 いずれも他で聞いたことのない術だ。

 自惚れじゃないけど――研究しがいのあるスキルだと思う。

 いや。むしろ研究してその結果を僕にも教えてほしい。切実に。


「あちらのテーブルでお待ちですので、よろしくお願いします」


 そんなことを考えていた僕を余所に、猫お姉さんはそれだけを言うと受付のカウンターに戻ってしまった。


 僕達は猫お姉さんが指し示したテーブルの方を見た。


 ――なんか、赤と黄色で目がチカチカする人がいた。

 いや、ギルドに入った時から見えていたけど、見えていないことになっていたのだ。


『――やっぱり、見なかったことにしよう』


 多分。()()は直視してはいけない()()だと思う。

 僕は踵を返そうとした。


「おお! 君が噂のぴょん君か!」


 見つかった。

 否。見つかってしまった。


 こうして僕達は運命の邂逅を果たした。



 

 ――主に僕にとって悪い方の意味で。



 ――――――


「いやぁ――長年脚竜族の研究をしているけど、こんな珍しい模様の脚竜族は初めて見るよ! 興奮するなぁ」


 僕は今。

 赤と黄色に囲まれている。


 ――じゃなかった。

 赤と黄色の派手な服を着た原色おじさんが、僕の周りをぐるぐる回っている。


 さっきから目がチカチカして、おじさんが周りを回っているのか、僕の目が回っているのか――それとも世界が回っているのか。

 さっぱり分からないんだけれども。


『助けてユニィー』


 とりあえず、ユニィに助けを求めた。


 ――伝わってきたのは諦めの感情だけだった。


 仕方がない。僕も諦めよう。


 ――ああ。おじさんの鼻息が熱い。




 10分後――


「本当にすまない。君があまりに珍しい種族だったのでね――つい興奮してしまったよ」


 そこには、幾分か落ち着いた原色おじさんがいた。

 言動からすると、どうやらおじさんは脚竜族の研究者らしい。


『うん――もういいよ――』


 僕は力なく答えた。


 すると。

 突然、おじさんがユニィの方を振り向いた。

 ユニィがビクッてなった。


「君、契約者だろ? 彼はなんて言ってるんだい?」


「あ――え、えーと。もう気にしてませんと言っています」


 原色おじさんには僕の声が聞こえないらしい。

 なぜかユニィが通訳をさせられることになっていた。


 そして――そこからは怒涛の質問攻めだった。


 今のクラス。前のクラス。その前のクラス。

 ――勢いが激しすぎて、断る隙が見当たらない。


 それぞれ進化したタイミング。使えるスキル。

 ――おそらく用意してあった質問なんだと思う。


 年齢。生まれた季節。父竜と母竜のクラス。生まれた村の名前

 ――そんなことまで必要なの? と思いながらも、勢いで答えてしまう。


 好きな食べ物、好きな色、好きな女竜のタイ――

『いや、絶対その辺いらないでしょ!』


 このままだと、おしめが取れた日まで答えさせられそうだ。

 ――いや、脚竜族はそんなもの使わないんだけど、なんかそんな勢いだ。


 ユニィが僕の言葉を伝えると、原色おじさんは頭を掻きながら頭を下げた。

 ん? 何だか良く分からないけど、かゆい――訳じゃないよね。多分。


「返す返すもすまない。こんなことは中々ないからね、また興奮してしまっていたよ」


 なるほど。

 どうやら、頭を掻くのは謝罪の仕草の一つのようだ。今度僕も使ってみよう。


 そう思いながら、とりあえず僕は頭を縦に振っておいた。

 夢中になって失敗するのは良くあるからね。凄く良く分かるよ。


「ありがとう」


 原色おじさんはそこで一つ頷くと、手帳を見ながら――今度はゆっくりと質問の言葉を続けた。


「ところで、これらのクラスの名前は初耳なんだけど――どうやってこの名前を知ったんだい?」


 ――むむ。

 落ち着いたと思ったら、いきなりそれ?


 このおじさん。意外と鋭いかもしれない。


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