65.用途
『ありがとうユニィ』
無事ナイフを手に入れた僕は、ユニィと一緒に運送ギルドへの道を歩いている。
値札を見た時にはどうしようかと真剣に悩んだんだけど――無事に手に入ってよかったよかった。
僕は革紐付きの鞘に入ったナイフを見ながら、思わず笑みを浮かべる。
交渉の結果、お小遣いの前借りという形でユニィに出してもらえた。
これでお小遣いなしの期間が延びてしまったけど――もう関係ない。
「ところでリーフェ。そのナイフ何に使うの?」
ユニィが尋ねてくる。まぁ当然の疑問だよね。
『もちろん。採集に使うんだよ』
「何の?」
――うん。
誤魔化そうとしてみたけど、やっぱり無理だったね。
こんなところでは話したくないんだけど――
僕は周囲を見回すと、小声で囁いた。
『深山芋だよ』
「深山芋!?」
『シッ。声が大きいよ』
ユニィが驚いたのも無理はない。
深山芋と言えば人里離れた山の奥にしか自生しない植物で、芋は食用になり葉は薬の原料にもなる、とーっても貴重な植物なのだ。
当然めったに流通しないので、ものすごく高値で取引されている――らしい。
つまりは、首尾良く深山芋を採取できれば――葉っぱを薬師ギルドに持っていくことで、十分な小遣い稼ぎができるという算段なのだ。
――お芋? それを売るなんてとんでもない。
「そっか。『サーチ』の術があれば簡単に――あれ? でも」
ユニィが疑問の声を上げる。
一ヵ月前に検証した結果。その一つを思い出したからだろう。
・一つ、知らないものは探せない
そう。どうやらこの術。使用者の認識によって結果が変わるようなのだ。
例えば『ユニィ』を探すときは、僕にとっての『ユニィ』は一人だけなので、目の前のユニィだけが光で示される。
だけど、この前の『銅貨』みたいに同じものがいっぱいあると、全てに反応してしまう。
逆に『大金貨』みたいに僕達が見たことがないものは、『サーチ』することはできないのだ。
――だけど。
『これがあるから大丈夫だよ』
僕は首に下げた皮袋の中から、ある物を取り出した。
「――茎? そっか、芋じゃなくても良いんだもんね」
『――蔓だけど、そうだよ。ラズ兄ちゃんに分けて貰ったんだ。』
そうなのだ。芋や葉は高値で取引されるけど、その他の部分に用途はない。
この前ラズ兄ちゃんのところに行った時――ラズ兄ちゃんとお花屋巨人さんが、この蔓から芽を出せないかって試していた。
その時に『これだ!』と閃いて、少しだけ蔓を貰ってきたのだ。
『ねぇ。ユニィも採りに行く?』
「うーん。私は遠慮しておくね。――役に立ちそうにないし」
ユニィが少し考えてから答える。残念だけど仕方ない――かな?
・二つ、位置を示す光は人族には良く見えない
僕が紫色だと思っていたこの光。
ユニィにはほとんど見えなくて――光が濃い時だけ何とか見えるぐらいだったし、鬚じいちゃんに至っては全く見えなかった。
他の人達にも見てもらったけど、多少の個人差はあっても、光が見えるかどうかは種族によって決まるようだった。
ユニィは、自分で術を使った時にも良く見えなかったから――すごくがっかりしてた。
でも――
『貴重な芋だから、ユニィにも光が見えるかもしれないよ?』
「うーん。だけど、範囲が広くなるとそれなりの数は生えてるでしょ?」
――確かにユニィの言う通りかもしれない。
・三つ、光の濃さは探すものの個数に反比例する
・四つ、探す範囲は半径1kmが基本で集中することにより広がる
そう。この術を使った時に現れる光の濃さは、探すものの個数に反比例する。
1個なら濃い光も、2個なら半分、4個ならさらに半分の濃さとなる。
深山芋がいくら貴重といっても、そこには見つけるのが大変だという意味も含まれている。
半径1kmの中には、いくつか生えているはずだし、そうなると光が薄れてユニィには見えなくなってしまうだろう。
うーん。残念だけど――仕方ないね。
僕は妥協案を提示した。
『それじゃ――取れたお芋は一緒に食べようね』
「――うん。よろしくね!」
ユニィの返事は元気だったけど――少しだけ寂しいという感情が伝わってきた。




