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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第三章 若葉
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64.雑貨屋

「いらっしゃいませ!」


 雑貨屋――「リーリル」の朝は早い。

 朝早くから活動する、冒険者やポーターが立ち寄ることを見越しているから――だそうだ。


「おはよう! コレット」


 ユニィが店員さん――栗毛の女の子に挨拶している。


()()()()()。ユニィ」


 店員さんが、苦笑しながら挨拶を返す。


 ――まぁ、いつもお昼頃に店を訪れる僕達には関係ない話だけどね。


 ユニィの挨拶からも分かる通り、二人は客と店員というより友達に近い関係だ。

 今日も二人で仲良く立ち話をし始めた。


 サボってて良いのかな? と思うけれど、朝と違ってこの時間は暇だから良いのかもしれない。

 僕はユニィ達のことは放っておいて、雑貨屋の店内を見回した。


 ――ああ。


 店内に並ぶ雑貨達に。一見無造作に配されたその配置の妙に。

 僕は胸にこみ上げるものを感じ、一竜(ひとり)身を震わせる。


 ――今思えば厳しい闘いだった。


 ユニィ救出騒動から一月。

 実は、鬚じいちゃんの腰はまだ壊れたままだったりする。

 少しは良くなったみたいだけど、一昨日もベッドから起き上がろうとして――「ぬっ!」とか言っていた。


 そのこともあって、最近は空術お姉さんに指導してもらいながら、フォリア近郊での仕事を受けているんだけど――

 結局、あれ以降ユニィからお小遣いは貰えていない。


 時々ラズ兄ちゃんにお菓子をもらったり、小腹がすいたら町の外で狩りをしたりしているんだけど――それだけでは賄えないものもある。


 だから――僕は闘った。


 先陣を切って――怯んだ敵の隙を縫い――守りの弱いところを突き崩す。――そして止めだ。


 そうして得た戦利品をトロフィーを。

 鈍く輝くその輝きを僕は頭上に掲げる。


 そして――周囲の雑貨達を見回す。


『さぁ! このトロフィー(お小遣い)と引き換えに、我が元に集うのだ!』


 ――おっと。


 思わず口に出していた。

 しかも、この前『暗黒』のコールさんに借りた小説の、登場人物の口調がうつってしまっている。

 聞かれていたら、ちょっと恥ずかしい。


 ――まぁ、でも大丈夫だったかな。


 店員さんには僕の声は聞き取れないからね。

 ユニィが一瞬だけ。眠い時の子猫みたいな細い目で、こちらを見た気がするけども。

 気のせいだよね。気のせい。


 ――僕は、素知らぬ顔で近くの雑貨を前脚で掴んだ。




 今。僕の前には二つの品がある。


 ひとつはハサミ。

 手先が不器用な僕達脚竜族にも使い易い、U字型の握って切るタイプの物だ。


 そしてもうひとつはナイフ。

 こちらは僕達脚竜族専用の物で、柄の部分を指の間で握って、掌との間で挟んで固定できるタイプの物だ。


 値札も合わせて比較する。

 僕の手持ちは大銅貨1枚と銅貨3枚。

 両方買うことはできない。うーん。


「リーフェが食べ物以外で悩むなんて珍しいね」


 ユニィが何か声を掛けてきたけど、ちょっと待って欲しい。

 どうするべきなのか。今僕は真剣なんだから。


 うーん。

 これらの品は何れも採取用の道具だ。

 どちらかというとナイフの方が汎用性が高いけど、使い易いのはハサミの方だろう。


「もの凄い勢いで泣いてせがむから、てっきりおやつが欲しいんだって思ったんだけど――」


 また何かユニィが言っているみたいだけど、今僕は本気と書いて――えーと何だっけ。まぁそんな感じなのだ。

 もうちょっと待って欲しい。


 うーん。

 やっぱりこっちかな?


 僕はナイフを手に取り、軽く振ってみる。

 うん。流石専用品だね。思った以上に扱い易い。


 刃渡りが短いし、刃も薄いから戦闘には使えそうにないけど――もともと何かと戦うつもりはないので、問題はない。


『これをお願いします』


 僕は店員さんにナイフを差し出した。


「――こちらをお求めですか?」


 僕は首を縦に振る。

 店員さんは、ナイフに括り付けられた値札を確認して言った。


「脚竜族用のナイフですね。こちらは――大銅貨3枚と銅貨5枚になります」


 ――お待たせ。さあ出番だよ!


『お願いユニィ』


 僕は上目遣いでユニィを見つめた。


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