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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第三章 若葉
66/308

63.見えたもの

今回いつもより長めです。

「大丈夫ですか? そして――ごめんなさい」


 私はベッドに寝ているシードルさんに頭を下げる。

 リーフェも私の横で頭を下げている。


「気にすることは無い。儂が自らやったことじゃ」


 詳しい話は誰にも教えてもらえなかったけれど。

 シードルさんは、私を助けるためにギルドまで救助要請に行って――道中で腰を痛めてしまったそうだ。

 しばらく絶対安静らしい。


「――それにの。お前さん達の安全を守るのも指導員の役目じゃ。今回の件は儂の落ち度じゃからのぅ。儂の体のことは気にするでない」


 シードルさんはそう言っているけど――どう考えても、シードルさんにとっては不測の事態なんだから、責任はないと思う。

 それに――


「でも、ギルドの救助費用まで全額肩代わりして頂いたと聞きました――流石にそれは頂きすぎだと思うんです」


 私の言葉を聞いた後。シードルさんは少し沈黙して。

 ――それから口を開いた。


「――儂もお前さん達も――最善を尽くした結果じゃよ」


 呟くようなその言葉に。その声音に。

 ――私はその先を言えなくなった。


 沈黙がその場を支配する。


「ありがとう――ございました」


 お礼の言葉だけ。それだけは何とか口にすることができた。


 一礼して、私達はその部屋を出る。


「――」


 ドアが閉まる直前。シードルさんの声が聞こえた気がした。



 シードルさんの家を出て、リーフェとふたりでギルドへの道を辿る。


 リーフェは、先程のお見舞いの時から一言も喋っていない。

 時折、辺りをきょろきょろと見回しているけれど――


「ねぇリーフェ。どうかしたの?」


『――ん? 何か言った? ユニィ』


 私の話も聞いてないみたい。


「さっきから、心ここにあらずって感じだけど――どうかしたの?」


 私はもう一度問い掛けた。


『――何でもないよユニィ。ちょっとだけ――そう、ちょっとだけ。新しい術を検証してただけだよ』


 リーフェが少し上の方を見ながら答える。


 ――そうだったね。


 今回の一件で。

 リーフェは新たな術を使えるようになっていた。

 その名も『サーチ』という術で、探し物ができる術だ。


 私のこともその術で見つけ出したみたい。

 試しに、リーフェのおやつのドーナツを隠してみたけど――あっという間に見つけていた。

 だから――


「もしかして、何か探し物?」


『え? いや。何も探してないよ?』


 リーフェが首を大きく横に振る。


 ――うーん。あやしい。

 悪いことではなさそうだけど――ちょっと気になる。

 気になるけど――こういう時のリーフェは何も教えてくれない。

 だから、教えてくれるまで待つことにした。


 ――そういえば。


 気になるといえば、私があの遺跡の祭壇で見た()()()()

 ()()は何だったんだろう?


 リーフェにもロゼさんにも他の人達にも。

 みんなに聞いてみたけれど――あの祭壇の上には何もなかったみたい。


 右の手の平を広げて眺める。

 あの時、()()()()に向けて伸ばしていた手だけど――

 特段変わったところはない。


 ――また今度。


 あの遺跡の近くにいく機会があったら――リーフェの術(サーチ)で探してもらおうかな?


 再び辺りを見回しているリーフェを見ながら。

 そんなことを考えた。



 ――――――


『ひどいよユニィ!!』


 僕は抗議の声を上げたんだけど――ユニィの気持ちは変わらなかったみたい。

 こういう時のユニィは、僕の話を聞いてくれない。

 だけど――真面目過ぎるのも考え物だと思うんだ。



 ユニィの救出騒動の翌日。


 あまりの衝撃(お小遣いなし)に、夜もたったの10時間しか眠れなかった僕に。

 その朗報は告げられたんだ。


「昨日お伝えした救助費用ですが――先程、シードルさんより全額お支払い頂きましたので、報酬の天引きは行わないこととなりました」


 昨日は冷酷な死神に見えた猫お姉さんが、今日は温和な慈愛の女神に見える。


 僕は隣のユニィを見た。

 期待に満ちた目で。少し首を傾けながら。


「駄目だよリーフェ。お金。ちゃんとシードルさんに返さなきゃ」


 僕が抗議の声を上げたのも――無理がないと思う。



 僕はすっかり気落ちしていた。

 ユニィが「シードルさんをお見舞いに行くよ」と言った時も――ただ後ろを付いて行くだけだった。


 ベットに横たわる鬚じいちゃんを見た時は――さすがに申し訳なくて頭を下げたけど。

 それが今の僕の精一杯だった。


 僕は頭を下げたまま。

 そのままベッドの下を見ていた。


 ユニィと鬚じいちゃんが何かを話している。

 だけど僕はずっとベッドの下を見ていた。


 ――ん?


 その時、僕は気付いた。気付いてしまった。

 そこに光る()()に。その輝きに。


 目を凝らしてみると、それは硬貨だった。

 大きさと色からすると――銅貨(クッキー一袋)に見える。


 ――!?


 僕は思わず息を呑む。

 危なく声を上げそうになった。危ない危ない。


 もちろん、その銅貨を拾おうと思った訳ではない。

 ある考えが頭に浮かんだのだ。


 僕は口には出さず、心の中で強く念じる。


 ――『サーチ』!


 そして同時に――頭の中に()()()を思い浮かべた。


 額に集まり拡がっていく冷たい感覚。


 ――昨日とは違い、目を凝らさないと見えないほど薄っすらとだけど。

 紫色の光が四方八方に伸びていく。

 そしてその一つは――目の前の()()に伸びていた。


 ――成功だ!


 僕は思わず拳を握る。思わず出てしまいそうになる声を何とか抑える。


 後は――他の場所に伸びるこの光を辿れば。

 ――銅貨(クッキー一袋)が落ちているかもしれない。それもたくさん!



「ありがとうございました」


 ユニィの話も、ちょうど終わったみたいだね。

 僕は――落ちているはずの銅貨を探すことにした。



 ――10分後。


 竜生(じんせい)そんなに甘くなかった。

 薄い光の導く先は――町行く人の腰に下げられた、皮袋(小銭入れ)だった。


 ――僕も真面目に生きよう。

 目を細めながらそう思った。






 ――――――


 ――その違和感に気付いたのは偶然だった。



 旅立ちから一月。

 俺はとある脚竜族の村を訪れていた。


 いつものように村の長老に会いに行き、書物(長老たちの記憶)を閲覧する。

 気になる事柄はメモとして残し、長老に質問する。


 この一月。


 何度か同じことを繰り返しているが――正直に言って芳しい成果は得られていない。

 書物を漁るだけの今の調査方法に疑問を感じ始めていた。ちょうどそんな時だった。


『――今日は『核生の儀』が行われる日じゃ。客人。良ければお主も一緒に祝ってくれぬか』


 渡りに船。

 俺は『核生の儀』を見学することにした。


 ――結論から言うと、それは俺たちの村と何の変わりもない儀式だった。


 儀式が始まる。

 おもりを引いて、眠気に耐えて、呪文を唱える。

 光に包まれて。光が消えて。

 ――それで終わり。


 ――少し落胆する。――いや、それは失礼な話か。

 後で、儀式の時に感じたものが無いか聞いておかないとな。

 俺は何気なく。何気なく、儀式を受けた新成竜の家族を見る。


 ――横断幕というやつだろうか。


「『核生の儀』成功おめでとう」


 そこに書かれた文字を見て。

 苦笑いが浮かびそうになって。

 ――俺は()()()


 ()()の儀?


 幼い頃から正しいと思っていたものが、正しくないこともある。

 ――俺は。一つ大きな勘違いをしていたようだ。


 呪文の最後の言葉『グロウスコア』。

 その意味するところに答えがあるのかもしれない。


次のエピソードは、少し軽めの予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 覚醒? 核生? ふふふふふw 続きが楽しみです
2022/04/02 16:12 退会済み
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