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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第三章 若葉
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62.救助

「――こりゃ無理じゃな」


 鬚じいちゃんが信じられない一言を呟いた。


『そんな! ユニィが助けを待ってるんだよ!』


 僕の説明を聞いてたでしょ?

 この下にユニィがいるんだよ?


「落ち着くんじゃ。リーフェスト」


『こんな時に落ち着いてなんか――』


「落ち着けと言うておろうが!」


 一喝。


 普段聞かない鬚じいちゃんの大声に。

 普段よりも大きく見える目に。

 僕は口を噤んだ。


「助けを呼びに行くぞ」


 鬚じいちゃんはそれだけ言うと――遺跡の入口へと歩き出す。

 そして――振り向きもせず続けた。


「リーフェスト。お主もこっちに来るんじゃ」


 ――あれ? 僕? ロゼばあちゃんじゃないの?


 僕はロゼばあちゃんの方を見る。

 ――ロゼばあちゃんは何も言わずに頷きを返す。


 僕は不思議に思いながらも――鬚じいちゃんを追いかけた。



 僕が追いついた時、鬚じいちゃんは荷車から鞍を出していた。


「これを着けるんじゃ」


 そして、僕にその鞍を手渡す。

 まさかとは思ったけど――これってそういうことだよね? 大丈夫なの?


 僕は少しだけ不安に思いながらも、鞍を背負う。

 前脚でベルトを絞ると、思った以上に背中にフィットした。

 そのまま姿勢を低くして待つ。


 5秒と置かず、鬚じいちゃんが背中に乗り、その重さを感じたと同時。


 空気の流れを感じた。

 背中の上からも――僕の体からも重さが消えるのを感じた。


 ――鬚じいちゃんが空術を使ったようだ。


「行くぞ」


 鬚じいちゃんが僕の首を軽く叩く。

 僕は覚悟を決めた。


『全速力で走るから――落ちないでね』


 ()は既に上がっている。

 僕は一歩を踏み出した。



 ――――――


 走る――重さは全く感じない。


 走る――川も林も小高い丘も。全ての地形を無視して最短距離で。


 走る。跳ぶ。身に纏う風の力で滑空する。そして――時には『ポケット』で足場を作り出す。


 フォリアの町の石壁が見えるまで。

 30分も掛かっていなかったと思う。


「壁を飛び越えられるかの?」


 鬚じいちゃんが聞いてきた。


『いいの?』


「緊急事態じゃ」


 僕は軽く頷く。

 ――それじゃあ。


 僕は門の方には向かわず、正面の石壁に向けてそのまま進んだ。

 石壁を蹴り――『ポケット』を足場に更に上へと跳ぶ。

 そのまま石壁を越えた僕達は――運送ギルドへと駆け込んだ。



「マスターを呼んでくれぃ」


 鬚じいちゃんが受付にいた猫お姉さんに声を掛けた。

 それと同時に。徐々に体が重くなるのを感じる。


 どさっという音に振り向くと、鬚じいちゃんが寝転んでいた。

 どうしたの? と思ったら、腰を押さえて唸っていた。


 ――腰が死んだみたいだね。


 「やり過ぎじゃ」という呻き声が聞こえたけど――

 気のせいと思うことにした。



 ――――――


「そこの石床を持ち上げろ!」


「土術が使えるものは、土砂を寄せて固めておけ!」


 つるつるおじさんの檄が飛ぶ。

 僕はただそれを眺めていた。


 あの後すぐに、手の空いている人員で救助部隊が結成された。

 特に機動力の高い脚竜族とその契約者が中心だ。

 ラズ兄ちゃんも居たし、ギルド外にも声を掛けたみたいだけど――かなりの人数になっている。


 力仕事はパワーラプトルとその契約者達が。

 出てくる土砂の処理はラズ兄ちゃん達が。

 処理された土砂の運搬はその他全員が。

 みんなで協力することで、あっという間に遺跡の床に穴が開いていく。


 僕はただそれを眺めていた。


『どうした新入り!』


 後ろからの声に振り向くと、そこにいたのは『隊長』だった。


『うん。みんなで協力したら、いろんな事ができるんだなって』


 僕はもう一度、救助部隊として集まったみんなを見る。ただ見つめる。

 その中には脚竜会の先輩達も何竜(なんにん)か居た。


『ほとんどがギルドでサボっていた奴だからな。こんな時ぐらいは働いて貰わないとな!』


 隊長が笑い声を上げる。


『――だがな。お前にはお前の役割があるだろ。ほら』


 急に真顔になった隊長の前脚には、ユニィへ宛てたメモが握られていた。

 僕は無言で――そのメモを『ポケット』の黒い穴に入れた。


 なぜだか、隊長に尻尾で背中をバシバシされた。


 ――少しだけ。モヤモヤした気持ちが薄くなった。



 それから5分後。

 僕の耳に歓声が届いた。


 急いで穴の側に向かう。


「おい待て! まだ――」


 ――待てないよ。


 つるつるおじさんの声を無視して、僕は穴に飛び込んだ。


『ユニィ!』

「リーフェ!」


 小部屋の隅に座っていたユニィが駆け寄ってくる。

 涙と砂埃でぐちゃぐちゃな顔だったけど――伝わってきたのは喜びと安堵の感情だった。


 何だか僕もつられて泣きそうになった。でも、涙はぐっと堪えた。

 僕は頼れる成竜(おとな)だから。




 フォリアの町に帰った後――


 僕はちょびっと怒られた。

 ユニィはめっちゃ怒られてた。



 でも――

 僕はギルドの中を見回す。


 なんだか向こうで騒いでいる人がいる。

 賑やかにギルドを出ていく人達がいる。

 お肉を食べてる先輩達がいる。


 ――僕はみんなに。救助を手伝ってくれたみんなの優しさに。

 心が温められていた。


 あの時感じていたモヤモヤした気持ちは――いつの間にか消えていた。








 


「今回の救助費用は金貨2枚となります。支払いは今後の報酬から天引きさせて頂きます」


 ――幻想(優しさ)を打ち砕く、猫お姉さんの無情なる言葉。

 




「――しばらくリーフェのお小遣い(おやつ)は無しね」


 僕の涙腺は決壊した。


本エピソードは次話までとなります。

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