60.伝言
『ユニィ』
――居ない。
『ユニィ?』
――ここにも居ない。
『ユニィ!』
――どこにも居ない。
祭壇のあった広間。入口脇に停めた荷車の荷台。壁際に置いた皮袋の中。
どこを探してもユニィの姿は見えない。
鬚じいちゃんとロゼばあちゃんの方を見てみたけど――ふたりとも首を横に振る。
――だとすると。
『やっぱり、この先――しかないよね』
僕は遺跡の奥へと続く通路を。その奥を見つめる。
そんな僕にロゼばあちゃんが問い掛けてきた。
『――あなたも行くの?』
『もちろん!』
僕は即答した。
ロゼばあちゃんが溜め息を吐く。
『本当は私だけで行くつもりだったんだけど――仕方無いわねぇ』
どうやらロゼばあちゃんは、遺跡の奥には一竜で行くつもりだったみたいだ。
確かに、僕には遺跡がどれ程入り組んでいるのかは分からない。
僕が付いていっても、足手まといにしかならないとは思う。思う――けど。
それでも。
ただ待つだけだなんて――耐えられないよ。
僕は改めてロゼばあちゃんに宣言する。
『僕も行くよ。ユニィが待ってるはずだから』
――脚元に冷たい空気の流れを感じる。
僕とロゼばあちゃんは、奥へと続く通路の前に立っていた。
ちなみに鬚じいちゃんは、ユニィが戻ってきた場合も考えてこの場所に居残りだ。
僕は逸る気持ちを抑えて、隣のロゼばあちゃんを見つめた。
ロゼばあちゃんはそんな僕に小さく頷くと――一歩前に出る。
そして――息を小さく吸い、いつも通りの静かな声で『キーワード』を口にした。
『行きますよ――『スキャニング』』
ロゼばあちゃんの瞳が枯草色に染まると同時。背筋に冷たいものが走る。
僕は思わず左右を見回すが、何の変化も見えない。
――何も起きてないけど――今のが『地図生成』のスキル?
そんな僕の疑問に答えるかのように、ロゼばあちゃんの呟く声が聞こえた。
『――『プロット』』
ロゼばあちゃんの目の前の空間に、瞳の彩色と同じ枯草色の濁りが生まれる。
そして、濁りが徐々に薄板状に集約し――質感を持った1枚の地図へと変化した。
『――行きましょうか』
その地図を前脚で掴むと、ロゼばあちゃんは通路を進み始める。
僕も慌てて、ロゼばあちゃんの後を追いかけた。
――――――
迷うことなく通路を進むロゼばあちゃん。
僕は横からロゼばあちゃんの持つ地図をのぞき込んだ。
遺跡内部の形状は、思ったよりも単純だった。
――1階部分は、真っすぐ進むと両脇に2部屋づつの小部屋があって、突き当りがT字路となっている。
そして、T字路で分岐した先はすぐに下り階段になっていて、下の階層へとつながっている。
地下1階部分は、先程の2か所の階段を始点と終点としたC字型の通路となっており、C字の外側に合計6部屋の小部屋が配置されている。
小部屋は1階と地下1階で合わせて10部屋。
今から僕達はこれらの場所――特にこれらの小部屋を虱潰しに確認するのだ。
――ユニィ。待っててね。
もうお腹が空いてきたかもしれないけど――もうすぐ助けに行くから。
――――――
探索開始から既に30分が経過していた。
『――どこにも居ない』
僕達は既に遺跡を探索し尽くしていた。
念の為に、地下1階については、二手に分かれて両側から同時に調べてみた。
小部屋については、岩などの物陰も全て目で見て確認した。
――でも。
ユニィは見つからない。
僕は大声で叫んでみた。
『ユニィー!!』
――返事はない。
不安が増す。お腹が空いてくる。また不安が増す。
最悪の事態が――痩せ細ったユニィが倒れ伏す姿が――脳裏を過ぎる。
僕は首を横に振る。嫌な想像を振り払うように。
そして皮袋の中に前脚を伸ばす。嫌な想像を振り払うために。
――そうだ!
おやつに前脚が触れた瞬間。
僕は思いつく。思い出す。
――ポケットで食べ物を送れば良いんだ!
僕は慌てて『ポケット』を発動する。
そして――目の前に現れた黒い穴に、僕は迷わず干し芋を放り込んだ。
――ひとまずこれで、安心あんし――あれ?
干し芋を放り込んだ瞬間。
1枚の紙切れが地面に落ちたことに気づく。
――えーと。
これってもしかして――ユニィからの手紙?
僕はすぐにその手紙に目を通した。
そして、そこに書かれた内容に――僕は落胆することとなった。
――――――
5m四方の出入口のない部屋。
部屋の中央にある祭壇の他は、目立つ物は何もない。
当然、部屋の探索はすぐに終わってしまった。
私は溜め息を吐く。
それでも、何かの手掛かりになればと。
助けに来てくれること。それを信じて――願いを籠めて。
私は調べた結果を紙に書き記す。
「お願い。気付いてリーフェ」
――私は『ポケット』を起動した。
10分後。
リーフェからの返事を期待していた私が見つけたのは――さっきも食べた干し芋だった。
これって何かのメッセージ――なのかな?




