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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第三章 若葉
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60.伝言

『ユニィ』


 ――居ない。


『ユニィ?』


 ――ここにも居ない。


『ユニィ!』


 ――どこにも居ない。


 祭壇のあった広間。入口脇に停めた荷車の荷台。壁際に置いた皮袋(おやつ袋)の中。

 どこを探してもユニィの姿は見えない。


 鬚じいちゃんとロゼばあちゃんの方を見てみたけど――ふたりとも首を横に振る。


 ――だとすると。


『やっぱり、この先――しかないよね』


 僕は遺跡の奥へと続く通路を。その奥を見つめる。

 そんな僕にロゼばあちゃんが問い掛けてきた。


『――あなた()行くの?』

『もちろん!』


 僕は即答した。

 ロゼばあちゃんが溜め息を吐く。


『本当は私だけで行くつもりだったんだけど――仕方無いわねぇ』


 どうやらロゼばあちゃんは、遺跡の奥には一竜(ひとり)で行くつもりだったみたいだ。


 確かに、()()()遺跡がどれ程入り組んでいるのかは分からない。

 僕が付いていっても、足手まといにしかならないとは思う。思う――けど。


 それでも。

 ただ待つだけだなんて――耐えられないよ。

 僕は改めてロゼばあちゃんに宣言する。


『僕も行くよ。ユニィが待ってるはずだから』



 ――脚元に冷たい空気の流れを感じる。


 僕とロゼばあちゃんは、奥へと続く通路の前に立っていた。

 ちなみに鬚じいちゃんは、ユニィが戻ってきた場合も考えてこの場所に居残りだ。


 僕は逸る気持ちを抑えて、隣のロゼばあちゃんを見つめた。


 ロゼばあちゃんはそんな僕に小さく頷くと――一歩前に出る。

 そして――息を小さく吸い、いつも通りの静かな声で『キーワード』を口にした。


『行きますよ――『スキャニング(地形解析)』』


 ロゼばあちゃんの瞳が枯草色に染まると同時。背筋に冷たいものが走る。

 僕は思わず左右を見回すが、何の変化も見えない。


 ――何も起きてないけど――今のが『地図生成』のスキル?


 そんな僕の疑問に答えるかのように、ロゼばあちゃんの呟く声が聞こえた。


『――『プロット(地図生成)』』


 ロゼばあちゃんの目の前の空間に、瞳の彩色と同じ枯草色の()()が生まれる。

 そして、濁りが徐々に薄板状に集約し――質感を持った1枚の地図へと変化した。


『――行きましょうか』


 その地図を前脚で掴むと、ロゼばあちゃんは通路を進み始める。

 僕も慌てて、ロゼばあちゃんの後を追いかけた。



 ――――――


 迷うことなく通路を進むロゼばあちゃん。

 僕は横からロゼばあちゃんの持つ地図をのぞき込んだ。


 遺跡内部の形状は、思ったよりも単純だった。


 ――1階部分は、真っすぐ進むと両脇に2部屋づつの小部屋があって、突き当りがT字路となっている。

 そして、T字路で分岐した先はすぐに下り階段になっていて、下の階層へとつながっている。


 地下1階部分は、先程の2か所の階段を始点と終点としたC字型の通路となっており、C字の外側に合計6部屋の小部屋が配置されている。


 小部屋は1階と地下1階で合わせて10部屋。

 今から僕達はこれらの場所――特にこれらの小部屋を虱潰しに確認するのだ。


 ――ユニィ。待っててね。

 もうお腹が空いてきたかもしれないけど――もうすぐ助けに行くから。



 ――――――


 探索開始から既に30分が経過していた。


『――どこにも居ない』


 僕達は既に遺跡を探索し尽くしていた。

 念の為に、地下1階については、二手に分かれて両側から同時に調べてみた。

 小部屋については、岩などの物陰も全て目で見て確認した。


 ――でも。

 ユニィは見つからない。


 僕は大声で叫んでみた。


『ユニィー!!』


 ――返事はない。


 不安が増す。お腹が空いてくる。また不安が増す。

 最悪の事態が――痩せ細ったユニィが倒れ伏す姿が――脳裏を過ぎる。


 僕は首を横に振る。嫌な想像を振り払うように。

 そして皮袋(おやつ袋)の中に前脚を伸ばす。嫌な想像(空腹による不安)を振り払うために。


 ――そうだ!


 おやつに前脚が触れた瞬間。

 僕は思いつく。思い出す。


 ――ポケットで食べ物を送れば良いんだ!


 僕は慌てて『ポケット』を発動する。

 そして――目の前に現れた黒い穴に、僕は迷わず干し芋(おやつ)を放り込んだ。


 ――ひとまずこれで、安心あんし――あれ?


 干し芋を放り込んだ瞬間。

 1枚の紙切れが地面に落ちたことに気づく。


 ――えーと。

 これってもしかして――ユニィからの手紙?


 僕はすぐにその手紙に目を通した。

 そして、そこに書かれた内容に――僕は落胆することとなった。



 ――――――


 5m四方の出入口のない部屋。

 部屋の中央にある祭壇の他は、目立つ物は何もない。


 当然、部屋の探索はすぐに終わってしまった。

 私は溜め息を吐く。


 それでも、何かの手掛かりになればと。

 助けに来てくれること。それを信じて――願いを籠めて。

 私は調べた結果を紙に書き記す。


「お願い。気付いてリーフェ」


 ――私は『ポケット』を起動した。




 10分後。

 リーフェからの返事を期待していた私が見つけたのは――さっきも食べた干し芋(おやつ)だった。



 これって何かのメッセージ――なのかな?

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