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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第三章 若葉
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59.遺跡

 荷物を積み替えた帰り道。

 空を見上げていた鬚じいちゃんがポツリと呟いた。


「雨宿りせんとのぅ」


 ――え? 何言ってるの?


 僕は空を見上げる。雲一つない青空だ。

 激しい雨が降る時に現れるモクモク雲もない。

 辺りは草すらも疎らな荒野だし――雨なんて降るの?


『ここから5km先に遺跡がありますね。そこまで急ぎましょうか』

「大変! 積荷が濡れないように幌を絞らなきゃ!」


 ――疑問に思ったのは僕だけだったみたい。



 結果として。

 遺跡に辿り着いた5分後には雨が降り始めていた。


 ――解せない。



 ――――――


 ユニィが遺跡の中を興味深げに眺めている。

 鬚じいちゃんは座り込んで水筒を傾け、ロゼばあちゃんはその横で丸くなっている。

 荷車は入口前にある庇みたいな岩の下に停められている。


『うー』


 そんな中、僕は遺跡の入口から空を見上げていた。

 ()()()()()空を。

 そして――そこから()()()()()()()()を。


 ――やはり解せない。


 そんな僕の様子を察したのか、鬚じいちゃんが近づいてきた。


「そんなに空が気になるんかのぅ」


 僕は胸につかえていた疑問をぶつけてみた。


『なんで雲がないのに雨が降るの? なんでじいちゃんにはわかったの? なんでおなかが減るの?』


「おお。難しいことを考えとるんじゃのぅ。そうじゃのぅ――お主、海は知っておるか?」


 僕は首を縦に振る。

 大きい水たまりが池や沼。もっと大きい水たまりが湖。もっともっと大きい水たまりが海。

 ――完璧だ。


「そうかそうか。それなら話は早いのぅ。この雨はな、海から降ってきておるのじゃ」


 ――ごめん鬚じいちゃん。何言ってるかわからないよ。

 僕は思いきり首を横に傾ける。

 まさかボケた? いや。でも――


「訳が分からんという顔をしておるのぅ。じゃが本当なんじゃよ。ここから遥か西の海では、いつも信じられんほどの強風が吹いておるんじゃ。この辺りではな――その風に巻き上げられた、海の水が降って来ることがあるんじゃよ」


 ――ちょっと話についていけない。

 ただ――


「じゃから――風向きと風の強さを読むことでな、()が降る場所がわかるんじゃよ」


 ――目の前で跳ねる魚を見て。

 僕はそれが真実と理解した。



 空から降る海。空から降る魚。空いて鳴るお腹。

 考えることが多くて――正直に言うと、僕は油断していたんだと思う。


 それは――僕が魚を捕まえてニヨニヨしている時のことだった。


「きゃぁっ!」


 突然、悲鳴が遺跡の中に響いた。


『ユニィ!』


 僕はとっさに魚を放り投げて、ユニィの声がした場所――祭壇へと走る。


 祭壇の周りは、先程まで無かったはずの――淡い光と輝く紋様に包まれている。

 そして――その中心に光り輝くユニィが居た。


「リーフェ!」


 あと僅か10歩程の距離。

 普段であれば一瞬で届くはずのその距離が――遠い。


 僕が一歩を踏みしめる毎に。

 溢れる光。

 拡がる紋様。

 眩しさに目を細めながらも次の一歩を踏み出す。


 薄目のまま数歩を駆け抜け――前脚と尻尾でユニィを抱え上げようとした瞬間。


 ――/ /――


 音にならない()を残して――光が。紋様が。()()()が――消えた。


『ユニィー!!』


 僕の声だけが――遺跡の中に響き渡った。



 ――――――


 /――


 ――目の前が揺らぐ。

 吐き気が――する。


 私は耳を澄ませながら――目を瞑り深呼吸する。

 繰り返し。ゆっくりと。繰り返し。


 そうして気持ちを落ち着けて――目を開く。


 5m四方の正方形の部屋。

 生き物の気配は――ないみたい。


 見回してみると、四方の壁に入口らしきものはなく、天井は高い。

 そして、部屋の中央には小さな祭壇が設けられている。


 祭壇――


 その祭壇を見ながら私は――先程の出来事を思い返していた。



 ――この遺跡は発見されてから100年以上が経っている。


 ギルドで得た情報の中には、この遺跡の話もあった。

 幸い魔物や大型の野生動物の類は住み着いていないらしい。

 だから。私は一人、遺跡の中を見物していた。


 やっぱり――調査が終わった遺跡という油断があったんだと思う。


 祭壇の上で何か光るものを見つけた時。

 その時に誰かを呼ぶべきだったのかもしれない。


 でも――私は何かに惹かれるように()()に手を伸ばしていた。


 そこからは良く覚えていない。

 悲鳴を上げたようにも、リーフェが駆けつけてくれたようにも――思う。

 ただ、気付いたら――この場に蹲っていた。



 私はもう一度周りを見回す。


 ――やれることはやってみよう――かな?


 私は不安を打ち払うため――その部屋の中を調べ始めた。


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