57.脚竜会
閑話的な何か。
『よーし。みんなそこに整列だ!』
早朝から響く声。
『イチ!』
『ニッ!』
『サンよ!』
『ヨン!』
『ゴ!』
『ロクッ』
『新入り! 声が小さいっ!』
『ロクゥッッ!!』
ギルドに登録してから早2週間。
これが最近の僕の――僕達『脚竜会』の朝の日課だ。
『よぉし。解散!』
『隊長』の前に並んで点呼を取るだけなのだが――これが意外と気持ち良い。
――ちょっとだけ。ほーんのちょびっとだけ癖になりそうだ。
『おーい。リーフェスト』
点呼を終えて――ギルドの休憩所に向かおうとした時に声を掛けられた。
この人は――会員番号5番。『暗黒』のコールさんだ。
因みにクラスは普通のエルダーラプトル。ブラックラプトルではない。
『なぁに?』
『今度の安息日――グロムと中央広場に遊びに行くんだが――お前も来るか?』
『もちろん!』
グロムさんというのは、会員番号4番。『識者』のグロムさんのことだ。
やっぱりクラスは普通のエルダーラプトルだ。
年も比較的近いので、特にこの二竜とは仲良くさせて貰っている。
町の中心部に遊びに行ったり、外に狩りに行ったり――
他の竜も一緒に遊ぶこともあるけれど――基本はこの二竜だ。
そういえば――
僕は気になっていたことを思い出した。
この際、聞いてみようかな?
『遊びに行く時に女竜は来るの?』
『おいっ』
途端、グロムさんが僕の口を押さえる。
そして――周りを見回し始めた。
『ふうっ』
ひとしきり周りを確認した後――僕の口から前脚を離す。
『どうかしたの?』
『お前――『隊長』に聞かれたらどうするんだ?』
『そ、そうだったね……』
『隊長』――会員番号0番にして、我らが『脚竜会』のリーダー。
脚竜会だから会長じゃないの? って思ったけど、やっぱり会長ではなく『隊長』らしい。理由は良くわからない。
なお、『隊長』のクラスは堂々たる2回進化。
それも――かのパワーラプトルと双璧を成すと言われるスタミナラプトルだ。
そんな『隊長』は、女竜の話題が出ると露骨に嫌な顔をする。
だから――話題には気を付けなければいけない。
因みに――遊びに行くときに女竜は来ないそうだ。当然のようにそう言われた。
――――――
その日のギルド内はいつもより少しだけ――ざわついていた。
『何かあったの?』
僕はその場に居たユニィに問いかける。
「それが――良くわからないけど、若い女性の脚竜族が門の外に居た――って噂になっているみたい」
『ええっ!?』
それが本当なら――ここに現れるかもしれない。
――こうしては居られないね!
僕は立ち位置を変えて、ギルドの入口に背を向けた。
もちろん来訪者に背中を見せるためだ。
僕が立ち位置を変えて――5分程経った時。
――「おい……」「……あれ……」
ざわめきが少し大きくなった。
周りの人達の顔を見ると、ちらちらとギルドの入口に視線が向いている。
――「こっち……!」「……が強……」
徐々にざわめきが大きくなる。
そして――背後に。その気配を感じた。
傍らのユニィの目が丸くなるのが見えた。
――仕方ないなぁ。
背中語りを止め、僕はくるりと振り返る。
当然顔の向きは左斜め上15度だ。
『何やってるの? うっかリーフェ』
――宿敵だった。
――――――
『――手紙。預かってきたわよ』
サギリが持ってきてくれたのは、マーロウからの手紙だった。
どうやら僕達が旅立った後、すぐにマーロウも旅立ったらしい。
僕は早速手紙に目を通す。
これまでに分かった「ホラ吹き奇術師」のこと。
新たに調べることにした「脚竜族の儀式」のこと。
今後は何かわかり次第、手紙を送ってくれること。
そして――
『ありがとうサギリ』
僕はお礼を言った。
僕ももう成竜。
そのぐらいの余裕はあるのだ。
『何、突然改まってるのよ――何か拾って食べた?』
サギリが横を向く。
『でも――感謝してるんなら――たまには私の修行も手伝いなさいよ』
僕は――首を縦に振った。
それを見たサギリが『当然ね』と言わんばかりに得意げな顔をした。
普段ならムッとするところだ。
だけど――今日は。今日だけは――後ろめたくてその顔をまともに見れなかった。
なぜなら。
マーロウの手紙の最後の一文。
――サギリに礼ぐらい言うんだぞ――
僕はその通りにお礼を言っただけだったから。
でも――今それを言うと命の保証はない。そんな気がした。
成竜になった僕には――そのぐらいの空気は読めるのだ。
いつにも増して攻撃的になったサギリが帰った後。
――今度は『脚竜会』のみんなに捕まった。
彼女が永遠の宿敵だと納得してくれた時には――既に日付が変わっていた。
そして――その日からしばらく。
『隊長』の声出し指導が激化した。めっちゃ激化した。それはもう激化した。
『もっと! もっとだ!! 魂を震わせろ! その振動を音となせ!! 声に乗せるんだ!!!』
『ロクゥッッッ!!!』
結構楽しかった。




