6.帰宅
走る。
木々の生い茂る斜面を下る。
走る。
苔生す石の転がる沢を横切る。
走る。
木々の切れ目を抜け。
青い草原の向こう。
ユニィの村が見えてくる。近づいてくる。
ユニィの腕に力が籠る。
うー。ちょっと痛いよ。
見張りは――居ない。
そのまま村の門を駆け抜ける。
村の奥から3軒目の青い屋根。
そこがユニィの家だ。
小さいけど、思い出はいっぱい詰まっているみたい。
思い出が溢れすぎて、ところどころ破けてるもんね!
そんな事を考えながら僕が扉の前で止まると、ユニィが転がるように背中から降りる。
危ないよユニィ。
壊れそうな勢いで扉を蹴り開けると、ユニィが叫ぶ。
「おかあさーん」
「ユ……コホッ……つも……う」
何か怒られているみたい。
――というか、流行り病とか、気を付けないと伝染っちゃうよ?
扉の中に首を入れる。
声は奥の方から聞こえてくる。
「そんなことよりも、薬。流行り病の薬だよ。ねぇ。早く飲んで?」
「あなた――こんな高価なものどうしたの? いえ。そもそもこんなもの――ゴホッ――この村にはないはずよ。一体これをどこで?」
「カロンさんのところだよ」
「隣村!? 何故そんな危ないことを! 途中の山にはゴブリンが出るはずよ。誰か。誰かと一緒に行ったの? いえ。この村にそんな危ないことを出来る人は――ッ。ゴホゴホッ――ゲホッ」
うん。ユニィめっちゃ怒られているね。
まぁ、実際危なかったしね。
そんなことを考えながら、覗き込んでいたんだけど。
「ねぇ」
後ろから声がする。
振り向いたけど、誰の姿も見えない。
「ねぇ」
少し下から声がする。
目線を下げると、その瞳が見えた。
「トカゲさん。おうちになにかようじ?」
その顔が記憶と一致する。
――ソニア。
そこに居たのは、ユニィの妹。
ソニアだった。
『僕はユニィについて来ただけだよ。ソニア』
僕は答えてみる。
「キュロルル? キュルア?」
やっぱり駄目だ。ユニィ以外には通じないよー。
そんなやりとりをしていると、再び奥の方から声が聞こえてくる。
「でも――」
「でもじゃないでしょ! ケホッ――大体あなたは――」
終わりが見えない。
「おねぇ――ちゃん?」
ソニアの目が少し大きくなる。森鹿が落とし穴に落ちた瞬間のような顔?
そしてそのまま嬉しそうな笑顔を浮かべる。
「またおねぇちゃんおこられてる」
うーん。それってそんなに嬉しいこと?
そんな事を考えている間にソニアが家の奥へと入っていく。
そして、立ち止まり、くるりと振り返る。
「キュロちゃんもおいでよ!」
――いいの? っていうか、キュロちゃんって誰?
こういう時は、『美味しいの?』のポーズだ。
「かわいー!」
ソニアが目を大きく開く。今度のはキラキラ光りそうな目だ。
「おかーさーん。キュロちゃん飼っていいー?」
「ぅわーん」
「あっ。おねぇちゃん! 大丈夫?」
「キュロちゃんって何? また何か拾って来たの? 捨てて来なさい」
「えー。キュロちゃんはトカゲさんだよ。はじめからおうちのなかにいたんだよー」
「何訳の分からないことを言ってるの? ゴホッ――」
「おがーざーん。ぐずり。ぐずりだよぉ」
何だかカオスな状況だね。
薬は届いたんだし、帰ろっかな?