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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第三章 若葉
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56.省みる

「そりゃすまんかったのぅ」


 私の話を聞いたシードルさんが頭を下げる。


 でも――気持ちはもう既に落ち着いている。

 それに、私達が道に迷ったのはシードルさんのせいじゃない。

 私は首を横に振った。


 その私の仕草を見てシードルさんが微笑みを浮かべる。


 ――()()

 微笑みじゃない。


「じゃがの――お前さん達。準備不足じゃぞ?」


 口元は微笑んでいるけど、目が笑っていないことに――ようやく気付いた。


「まず今回の依頼じゃがな。街道に水スライムが出ていることは少し調べれば――それこそ、()()の受付に聞けば――分かったはずなんじゃ」


 それを聞いて思い出した。

 出発前にシードルさんが「しっかり準備しておくんじゃぞ?」って言っていたことを。


「それが分かれば対処法も調べられる。それらを準備する時間は十分にあったはずじゃ」


 目線が徐々に落ちていく。

 落ちて落ちて。

 テーブルの縁まで目線が下がった時。


「まぁ、今回の指導の目的はそれを知ることなんじゃがのぅ」


 シードルさんの優しい声が聞こえた。

 私は目線を上げる。


()()。使わなかったんじゃろう? 上出来上出来。ジョディの時はすぐに使ってしもうたからのぅ」


 シードルさんは私のポーチの水筒を見ながら、片手をこちらに突き出している。

 私は水筒をシードルさんに手渡した。


 ――結局何が入っていたんだろう?


 私の疑問に答えるように、シードルさんは笑顔で水筒の栓を開けると――中身を飲み始める。


 ――え?


 驚く私の鼻に届いたのは――わずかに香るお酒の匂いだった。



 ――水スライム。

 生物の足元に纏わりつく習性があるけど、あまり害はないらしい。

 溺れたりしないように気を付ければ良いだけだそうだ。

 あとは――日光とお酒に弱いみたい。


 後からこの場に現れたジョディさんに教えてもらった。


「師匠。ユニィちゃんがつれないんです」


 そのジョディさん。

 久し振りに会えたんだけど――今日はちょっと酔っているみたい。


 受付のリュノさんに先程お酒を取り上げられてたけど――

 もう手遅れ。完全に酔っ払いさんだと思うの。


「ジョディ。お主が話し掛けとるのは――ただの植木じゃぞ――」


 ジョディさんには――この前の少年がどうなったのかとか、先輩ポーターとしての心構えとか。

 もう少し色々聞きたかったし、色々話したいこともあったんだけれど――今日はちょっと無理かなぁ。



 ――――――


『もうお腹いっぱいだよ』


 竜舎の隅に確保した自分の寝床に横になる。


 あの後――先輩達が一竜(ひとり)ずつ増えていって大変な目に遭った。

 お腹の限界もそうだけど、最後に誰かが持ってきた『暗黒物質(ダークマター)』という名前の黒い物体(食べ物?)が刺激的な味で――本当に危なかった。


 完食した自分を褒めてあげたい。そんな気持ちだ。



 そういえば――

 日課の『進化樹』を眺めながら思い出す。


 ――ロゼばあちゃんのクラスって何だろう?


 鬚じいちゃんは空術を使ってたけど――青いラインが入っていないからブルーラプトルじゃない。

 尻尾の周りの模様が細かい斑模様になっていたから――ただのエルダーラプトルじゃないとは思うんだけど。


 ――ふぁぁ


 何だか――欠伸が出てきたよ。

 ――変に考えるのは止めて、明日本竜(ほんにん)に聞いて――みようか――な。



 ――――――


 相棒のロゼと共に我が家へと帰ってきた。

 今日もいつものように――納屋へと向かう。


 儂が彼女と行動を共にするようになってから随分時が流れた。

 喜びも悲しみも――同じ時を共に過ごしてきた。


 じゃが――


「そろそろ潮時かもしれんのぅ」


 近年は専ら若い者の指導を行っているが――肝心の体が付いてこない。


 儂の場合、騎乗にも体力を消耗する。

 今の衰えた体力では、ここぞという時にしか本気の速度は出せない状態だった。


 今日も――若さ溢れるふたりを見て、眩しく――そして懐かしく感じていた。


「のぅ。お主等もそう思うじゃろ――」


 納屋に眠る荷車を眺める。

 もう――10年以上は引いとらんかのぅ。


 何も言わぬロゼの背を撫でながら――

 水筒に口を付け、傾ける。


 ――既に空だとは知りつつも。最後の一滴を求めて。


次回、閑話的な話を挟んで第2エピソードへと入ります。

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