53.顔合わせ
「ねぇリーフェ。「指導員」の人ってどんな人かなぁ」
ユニィがそんなことを言い始める。
『うーん。多分だけど――渋くて無口で背中で語るカッコいいおじさんだよ。もちろん、脚竜族の方は美竜のお姉さん!』
僕達は、待ち時間を利用してユニィの荷物を運んでいた。
ラズ兄ちゃんの契約者の――えーと。名前は忘れたけど――お花屋巨人さんに頼んで、今日までお花屋さんの裏に置かせてもらっていたのだ。
「私の予想では――優しくて力持ちの――お兄さんかな? 脚竜族の方が無口なおじさんでしょ!」
『うーん。意外と僕達の予想の中間で、力持ちで背中で語――いやいや。それは無いよね』
ふたりで楽しく予想して盛り上がる。
――まぁ。
予想は外れるためにあるとはよく言ったもので――
――――――
「おぉ。これはまた可愛らしい子達じゃのぅ」
『そうですねぇ』
――僕達の目の前にいるのはふたりのご老体だ。
「こちらがシードルさんと騎竜のロゼさんです。この方々は、このギルドの最年長ポーターと最年長騎竜で、これまでも多くの新人を指導してきた大ベテランとなっております」
うん。見れば分かるよ。
風格があるもん。額の皺とか顎のお鬚とか。
「この方々に、あなた達の指導員を務めて頂きます」
猫お姉さんの紹介に合わせて、老ポーターと老女竜が軽く頭を下げる。
「はじめまして。ユニィです」
『――はじめましてリーフェストです』
ユニィに続けて、僕も慌てて頭を下げる。
僕もきちんと挨拶しないとね。
挨拶を終え頭を上げる。
――その時に見えた老ポーターと老女竜の柔らかい瞳。
その印象的な瞳に――なぜか心がざわざわした。
――――――
『ラズ兄ちゃん助けてー』
『ん? どうしたんだリーフェスト』
『それがね。聞いてよラズ兄ちゃん』
――顔合わせの後。
本格的な指導は明日からということで、その場は解散して部屋に行こうとしたんだけど――どうやら、脚竜族は2階に入れないらしい。サイズ的に。
仕方ないので、ギルドに併設されている脚竜族用の竜舎に一竜でトボトボと向かったんだけど――
気付けば、周りを昼間の男竜達に囲まれてた! ヤバい!
身の危険を感じた僕は、『ポケット』を使った三角跳びを駆使して一目散に逃げだしてきた――という訳なのだ。
『――バババッと囲まれて男竜達にぐにぐにされて、ポケットでぴょんぴょんシュタタって逃げてきたんだよ!』
僕は身振り手振りに擬音語擬態語を交え、臨場感と躍動感たーっぷりにラズ兄ちゃんに語って聞かせる。
僕が如何にして追いすがる魔の手から逃れ、この安息の地に生還したのかを。
『――あー。よくわからないけど、居たのが男竜ばかりだったから逃げてきたのか』
――うん。相変わらずラズ兄ちゃんは察しが良いね。
僕は首を縦に振る。
『でもな。リーフェスト』
ラズ兄ちゃんが僕の顔を覗き込む。
『皆歓迎してたんじゃないのか? それにしばらくそこで暮らすんだろ? 逃げてきてどうするんだ?』
ラズ兄ちゃんの問い掛け。
僕は何も――何一つも言い返せなかった。
『今ならまだ間に合う――だろ?』
『――うん』
『お前、もしかしてさっきの黒いのがデススターか?』
『あの跳躍力、流石ブランの息子だな!』
『今度は逃がさないわよ』
『目が黒く光ってたぞ。何だあれは』
『あれがぴょん――ぴょんなのか――』
さっきより余分にぐにぐにされた。ついでにまたバシバシされた。
しかもなんか一竜増えてた。
――やっぱり助けて。ラズ兄ちゃーん!
こんな体育会系なんて無理! 僕には無理だよ!
――でもね。
脳裏を過ったその聞きなれない言葉に気付かない程には――僕はこの状況を楽しんでいたのかもしれない。
そう気付いたのは――ずっと後。




