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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第三章 若葉
55/308

52.選択

 カンカンカン――カンカン――


 甲高く――リズミカルな音がギルド内に響いている。

 そして――


「――できました」


 手に持っていた木槌と短い鉄の棒を置いた後、猫お姉さんがこちらを向く。

 お姉さんの手には、2枚の銀色の金属板があった。


「はいどうぞ」


 差し出された()()を、ユニィが恭しく両手で受け取る。


「これが――ギルドカードですか」


「はい。おふたりそれぞれのカードです。身分証になっているので、失くさないようにして下さい」


 金属板――ギルドカードには、穴が2つ開いていた。

 どうやら紐でぶら下げるための穴らしい。


 でも――僕にはそれよりも気になることが有った。


『ねぇ。あっちのカードはどうするの?』


 木槌の傍には3枚程のカードが残されている。

 あれは何に使うんだろう?


 一瞬の沈黙。そして――


「この星マークは何でしょうか?」


 お姉さんが僕の疑問に答えるより早く、ユニィが別の質問をした。


「そちらはランクを現すマークです。見習いのFランクからAランクまで。ランクが星の数で表されています」


「ランク――ですか?」


「ランクは――簡単に言えば、ギルドからの信頼度ですね。ギルドから提示する依頼はこのランクに応じて変化します」


 ユニィの質問に答えるお姉さん。

 だけど、僕の疑問には答えてくれなかった。

 まぁ、聞こえてないんだろうけど。



「それじゃあ次は――ちょっと待ってて下さいね」


 猫お姉さんが紐で綴じた1冊の本をカウンターの下から取り出す。

 そして――ユニィが名前を書いた紙を見ながら、本のページを捲っていく。


 1枚。1枚。また1枚。チッ。また1枚。

 ページを捲る音に時々何かの音が混じる。


 そして――お姉さんの手が止まった。


 お姉さんがユニィを。そして僕を見る。


「実は――騎竜持ちの女性ポーターは数が少ないんです」


 ――ん? なに?


「――ですので、今紹介できる「指導員」は――騎竜持ちの男性ポーターか、女性でも騎竜を持たないポーターしかいないんです」


 そうなの?


「――どちらを希望されますか?」


「騎竜持ちでお願いします」


 ユニィの答えはびっくりするぐらい即答だった。


「リーフェと一緒に仕事を学びたいですから」


 ――ユニィから伝わる信頼の感情が心地よい。

 それは、お姉さんも同じだったようだ。

 表情からは良く分からないけど、耳が横に倒れてるし、何より声が優しくなった――気がする。


「分かりました。それでは――そうですね。夕刻に入る前――4時にこちらの受付で紹介します」


 そこまでいうと、お姉さんはカウンターから出てきた。


「それでは、貸し部屋に案内するので付いてきて下さい」


 ――あれ? 受付に人が居なくても良いのかな?


 そんなことを考えている間に、お姉さんは受付の右手にある階段を上り始めた。僕達も慌てて後を追う――


「あっ。脚竜族の方は下で待っていて貰えますか」


 ――僕は留守番だった。寂しい。



 ――10分後。


「お待たせリーフェ――あれ?」


『助けてユニィー』


『お前のあのデススターって何だ? 何だ?』

『お前ブラン(心の友)の息子だったのか!』

『あら。意外と筋肉あるじゃない』

『見たこと無い模様だ。面白い』


 僕は先輩達に囲まれていた。

 みんな男竜(おとこのひと)だった。前脚でバシバシされた。


 ――寂しい? それって何だっけ?



 ――――――


 ――チッ


 3片の()()を屑入れに放り込んだ後。

 ギルド内を見回して――思わず舌打ちしてしまう。


 まったく――

 マスターといいコイツらといい、お前らはそんなに暇なのか。

 いつも以上に盛況な休憩所に頭が痛くなる。


 それに――


()()でお酒は駄目って言いましたよね? ジョディさん」


 ――この酔っ払いが!

 この問題児を紹介する羽目にならなくて、本当に良かった。


「いやぁ。ユニィちゃんが私の事に気付いてくれなかったのが寂しくて。つい」


「いつも飲んでますよね?」


 お酒の入った器を取り上げて。

 頬が引きつりそうになるのを感じながらも――辛うじて微笑んだ顔を作る。


「没収です」



 マスターが甘い顔をするから――私の頭痛の種は尽きない。


 そういえば――先程の酔っ払い(ジョディ)の言葉を思い出す。


()()()()()()()――」


 ――この酔っ払いの知り合いなんだとしたら。

 純真で無害そうな顔をしていたけど、あのふたりも何らかの――


 ――尻尾の先がピクリと震える。


 警戒だけはしておかなければ。そう思った。


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