52.選択
カンカンカン――カンカン――
甲高く――リズミカルな音がギルド内に響いている。
そして――
「――できました」
手に持っていた木槌と短い鉄の棒を置いた後、猫お姉さんがこちらを向く。
お姉さんの手には、2枚の銀色の金属板があった。
「はいどうぞ」
差し出されたそれを、ユニィが恭しく両手で受け取る。
「これが――ギルドカードですか」
「はい。おふたりそれぞれのカードです。身分証になっているので、失くさないようにして下さい」
金属板――ギルドカードには、穴が2つ開いていた。
どうやら紐でぶら下げるための穴らしい。
でも――僕にはそれよりも気になることが有った。
『ねぇ。あっちのカードはどうするの?』
木槌の傍には3枚程のカードが残されている。
あれは何に使うんだろう?
一瞬の沈黙。そして――
「この星マークは何でしょうか?」
お姉さんが僕の疑問に答えるより早く、ユニィが別の質問をした。
「そちらはランクを現すマークです。見習いのFランクからAランクまで。ランクが星の数で表されています」
「ランク――ですか?」
「ランクは――簡単に言えば、ギルドからの信頼度ですね。ギルドから提示する依頼はこのランクに応じて変化します」
ユニィの質問に答えるお姉さん。
だけど、僕の疑問には答えてくれなかった。
まぁ、聞こえてないんだろうけど。
「それじゃあ次は――ちょっと待ってて下さいね」
猫お姉さんが紐で綴じた1冊の本をカウンターの下から取り出す。
そして――ユニィが名前を書いた紙を見ながら、本のページを捲っていく。
1枚。1枚。また1枚。チッ。また1枚。
ページを捲る音に時々何かの音が混じる。
そして――お姉さんの手が止まった。
お姉さんがユニィを。そして僕を見る。
「実は――騎竜持ちの女性ポーターは数が少ないんです」
――ん? なに?
「――ですので、今紹介できる「指導員」は――騎竜持ちの男性ポーターか、女性でも騎竜を持たないポーターしかいないんです」
そうなの?
「――どちらを希望されますか?」
「騎竜持ちでお願いします」
ユニィの答えはびっくりするぐらい即答だった。
「リーフェと一緒に仕事を学びたいですから」
――ユニィから伝わる信頼の感情が心地よい。
それは、お姉さんも同じだったようだ。
表情からは良く分からないけど、耳が横に倒れてるし、何より声が優しくなった――気がする。
「分かりました。それでは――そうですね。夕刻に入る前――4時にこちらの受付で紹介します」
そこまでいうと、お姉さんはカウンターから出てきた。
「それでは、貸し部屋に案内するので付いてきて下さい」
――あれ? 受付に人が居なくても良いのかな?
そんなことを考えている間に、お姉さんは受付の右手にある階段を上り始めた。僕達も慌てて後を追う――
「あっ。脚竜族の方は下で待っていて貰えますか」
――僕は留守番だった。寂しい。
――10分後。
「お待たせリーフェ――あれ?」
『助けてユニィー』
『お前のあのデススターって何だ? 何だ?』
『お前ブランの息子だったのか!』
『あら。意外と筋肉あるじゃない』
『見たこと無い模様だ。面白い』
僕は先輩達に囲まれていた。
みんな男竜だった。前脚でバシバシされた。
――寂しい? それって何だっけ?
――――――
――チッ
3片の鉄屑を屑入れに放り込んだ後。
ギルド内を見回して――思わず舌打ちしてしまう。
まったく――
マスターといいコイツらといい、お前らはそんなに暇なのか。
いつも以上に盛況な休憩所に頭が痛くなる。
それに――
「ここでお酒は駄目って言いましたよね? ジョディさん」
――この酔っ払いが!
この問題児を紹介する羽目にならなくて、本当に良かった。
「いやぁ。ユニィちゃんが私の事に気付いてくれなかったのが寂しくて。つい」
「いつも飲んでますよね?」
お酒の入った器を取り上げて。
頬が引きつりそうになるのを感じながらも――辛うじて微笑んだ顔を作る。
「没収です」
マスターが甘い顔をするから――私の頭痛の種は尽きない。
そういえば――先程の酔っ払いの言葉を思い出す。
「ユニィちゃんが――」
――この酔っ払いの知り合いなんだとしたら。
純真で無害そうな顔をしていたけど、あのふたりも何らかの――
――尻尾の先がピクリと震える。
警戒だけはしておかなければ。そう思った。




