51.受付
「登録お願いします!」
そう言うと、カウンターのつるつるおじさんに頭を下げる。
今日もユニィは元気いっぱいだ。
「――おお。いつぞやの嬢ちゃんか」
おじさんが僕を見た後、一拍置いて答える。
「そうか。嬢ちゃんも大人の仲間入りか。おめでとう。――そしてようこそ運送ギルドへ」
腕を組んで口の端を上げている。口元から少しだけ見えている歯が――やけに白い。
ちょっと恐い顔だけど――多分笑顔だ。多分。
でも今更だけど――この人が受付で、このギルド大丈夫かな?
「あの――それで登録を――」
そんな笑顔に気圧されながら――言葉を続けるユニィの右手には1枚の紙。
村長に書いてもらった「紹介状」だ。
「おお。すまんすまん。登録だったな――」
そう言うと、おじさんはカウンターの下から紙と――一冊の本を取り出す。
そして、おじさんは本を広げながら言った。
「それじゃあまずは――この登録用紙に名前とスキルが使えるならスキル――それに、嬢ちゃんの場合は騎竜の名前とクラス名も書いてくれ」
おじさんに促されて、ユニィが紙に情報を書き込んでいく。
僕もその紙をユニィの後ろから覗いて見た。
名前 : ユニィ
スキル : わかりません
騎竜名前 : リーフェスト
騎竜クラス : エルダーラプトル’
うん。バッチリだ。
スキル名は――術名の『ポケット』を書いても訳が分からないし、正直に「わかりません」と書いたみたいだ。
ユニィがおじさんに紙を渡す。
おじさんは紙を受け取ると、確認のために復唱する。
「名前は「ユニィ」で――スキルは――「わかりません」ということは「無し」で良いのか?」
『違うよ! 分からないんだよ!』
思わず反論するが――おじさんはこちらを一瞥すると、何事もなかったかのように復唱を続ける。
聞こえていないのかもしれない。
「騎竜の名前は「リーフェスト」で――クラスは「エルダーラプトル」成竜したばっかりだな」
『違うよ! 「エルダーラプトル」じゃなくて、「エルダーラプトル エクステンドデススター」だよ!』
僕は強く反論する。
背後で何やらざわめきがおこる――ちょっと気になるけど、今は黙っていて欲しい。
大事な話の途中なんだ。
僕はつるつるおじさんの顔を見つめる。
言葉は通じなくとも、心は通じると信じて。
3秒程見つめ合っていただろうか。
「すみません。そこは「エルダーラプトル」ではありません。――少し貸していただけますか?」
ユニィがそう言って、おじさんから紙を受け取って書き足してくれた。
――流石ユニィ!
そう思ってユニィの後ろから覗き見ると――
騎竜クラス:エルダーラプトル’
――ってなってた。
うん。こうなるって薄々勘付いてたよ。悲しいけど。
「ほう。なんか模様が違うと思ったら、普通のエルダーラプトルじゃないのか」
つるつるおじさんが僕の頭から尻尾まで眺め回す。
ちょっとくすぐったい――気がする。うん。くすぐったい。
「――まぁ良い。次は新人にとっての基本的な話だな」
あれ? もう終わり?
僕は体をくねくねさせるのを止めて、再びおじさんの言葉に耳を傾けた。
「まずは――そうだな。嬢ちゃんは今日からポーターとしての一歩を踏み出すわけだが、当然そんな素人に仕事を任せるわけにはいかない。だからギルドでは「見習い」制度というものがある。まぁ、これは常識の範疇だな」
そう言って、おじさんはユニィの顔を覗き込む。
そして、ユニィが頷くのを確認して話を続けた。
――僕もとりあえず頷いておいた。こくこく。
「運送ギルドでは、見習い期間は1年間と決まっている。その間はギルドの指定した「指導員」――まぁ、いわゆるベテランと依頼を受けてもらう」
ユニィが再び頷く。
僕も大きく頷いておく。こくりこくり。
「当然報酬も折半だが――それだと別報酬が出る「指導員」はともかく、見習いは生活ができなくなっちまう。だから見習いの間は、ギルドが寝る場所だけは面倒を見る」
おじさんが上を指さす。
「――まぁ、ここの2階だがな」
ユニィが大きく頷く。
僕も壊れたおもちゃのように首を縦に振る。――なんだか楽しくなってきた。
「まぁ、そんなとこだ。後は指導員に聞いてくれ」
おじさんはまた口の端を上げて、やたらと白い歯を見せてきた。
「それじゃあ後は、ギルドカードの作成と指導員の選定だが――」
そこでおじさんが辺りを見回す。
――何とは言わないけど、乱反射してちょっと眩しい。ちょっと。
その時。
カウンター裏の扉が開いた。
「マスター。頼まれていた書類整理終わりました」
「――おお。いたいた」
そこから出てきた猫型獣人のお姉さんを見て、おじさんが声を掛ける。
「すまんがリュノ君。彼女たちのギルドカード作成と指導員選定を頼む」
「――また何か面白いものでも見つけたんですか?」
一瞬、猫お姉さんの目が細くなった気がした。
瞬きしたら元に戻ってたけど。
「まぁ、そういうことだから頑張れよ!」
おじさんは素早い身のこなしで、逃げるように扉の方に移動していった。
僕達は慌ててお礼を言う。
「ありがとうございました!」
『ありがとう。つるつるおじさん!』
最後におじさんにものすごく睨まれた。
――もしかして全部聞こえてた?




