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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第三章 若葉
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50.旅立ち

第3章『若葉』の開始です。

よろしくお願いします。

「忘れ物はない?」


 アリアさんの声がする。


「大丈夫!」


 ユニィの声がする。


「おねぇちゃん! お金入れる袋忘れてるよ!」


 ソニアの声もする。


「あれ!?」


 ――ユニィの家は今日も楽しそうだ。



 今日は旅立ちの日。


 つい先日、誕生日を迎えて成人したばかりのユニィ。

 そんなユニィも、これからは自分の稼ぎで生活をしないといけない。


 僕達脚竜族の感覚からすると、人族の成人は体の成長に比べて随分と早い――と思う。

 まだ成長期に入る前だから、見た目も子供っぽいしね。

 それでいて、仕事をして生活しなければいけないんだから大変だ。


 ――とは言っても、実際には近所付き合いだったり各種ギルドによる補助制度だったりのおかげで、いきなり世間の荒波にさらされるということは無いそうだ。

 もちろん、奇術師にはギルドなんてないから、あのまま(ユニィの意見通り)だったら嵐の海に飛び込むようなものだったけどね!


 ――うん。思い止まってくれて本当に良かった。


 そんなことを考えている間に、ユニィの準備が整ったようだ。

 アリアさんやソニアと一緒にユニィが家から出てくる。


 今日の荷物は革袋2袋分のようだ。

 事前に何度か荷物を運んでいるので、今日の荷物はそれほど多くないはず。

 革袋を垂らした時に僕の脇腹あたりになるよう、ユニィが手際良く僕の背中に革袋を括り付ける。

 手際が良いのは、ここ最近の練習の成果だ。


「それじゃあ行ってくるね。お母さん。ソニア」


「行ってらっしゃい。くれぐれも周りの人の意見もちゃんと聞いて行動するのよ」

「おねぇちゃん頑張れ! キュロちゃんもまたねー!」


 ユニィが僕の背に乗ったのを確認して、僕はゆっくりと走り始める。

 目的地は以前行ったことのあるフォリアの町だ。


 僕は加速しながら背中のユニィをちらっと覗く。


 ――瞳がキラキラしている。

 別れの寂しさとかより、これからの生活に対する希望の方が大きいみたい。

 それでこそユニィだよね!


 それにしても――


『ねぇユニィ。なんでこんなに荷物があるの? この革袋何が入ってるの?』


 新しい生活に必要な物は今日までに粗方運んだし、小さなものは向こうで調達すれば良い。

 だから、今日の荷物はほとんど無いはずだったんだけど――思ったより重たい。


「何言ってるの?」


 ユニィに即答で返された。


「当面着る服でしょ? お気に入りの木のコップでしょ? 替えのポーチでしょ? リーフェのおやつでしょ? いざという時のく――」


『うん! わかったよ!』


 とりあえず重要な情報(おやつの有無)さえ聞ければそれで良い。

 情報の取捨選択は()()()として重要な技能なのだ。


 ――それにしても、女の子の旅立ちって大変なんだね。

 僕は新たな知識を学んだ――また少し自らの成長を感じた。


 次も同じ場面があるのなら――出発までの待ち時間は寝て待ってようかな。

 そう思った。

 


 ――――――


『ねぇ。マーロウ』


 私は目の前の親友に声を掛ける。今日はリーフェは居ない。だって――


『リーフェに続いてあなたも旅立つの?』


 リーフェが旅立ったのが3日前。

 この村も静かになった――と思った矢先のマーロウの旅立ち宣言。

 しかも今から旅立つって、急すぎない?


 少し胸のあたりがもやもやとする。


『ああ。()()()()()()ができたからな。この村にいて入手できる情報には限度があるんだ。仕方ないだろ』


『リーフェのクラスのこと? 確かにリーフェみたいに意味の分からないクラスだけど――』


 私の質問はマーロウにより途中で遮られた。


『あー。それも()()()()調べるけどな。俺が調べるのは「脚竜族」自体についてだな』


 ――やっぱりそう。

 マーロウは今回も目的を持って行動を起こしている。

 あのうっかリーフェですら、契約者(パートナー)と仕事すると言い張って旅立った。


 それじゃ私は?


 自分のことを振り返る。

 小竜(こども)の時から。成竜(おとな)になっても。


 私の頭の中にあるのはただ一つ。

 誰よりも速く走ること。


 ただ――それだけ。



『なぁ』


 その声に私は意識を現実に戻す。

 黙り込む私にマーロウが声をかけてきたようだ。

 私はマーロウを見る。


『お前も旅にでも出た方が良いんじゃないか?』


『どうして?』


 私は思わず問い返していた。


『そんな顔をしてるからだな』


 ――そんな顔ってどんな顔?


 心の中のその疑問に答えが出ることはなかった。


『――リーフェでも追いかけてた方が良いんじゃないか?』


 マーロウが口の端を上げてとんでもないことを言う。


『どういう意味よ!』


 こういう所(冗談が面白くない所)は成竜になっても変わらないらしい。


『お前の練習相手になれるのはあいつぐらいだろ?』


 そんなことを言い捨てて、マーロウは旅立って(逃げて)いった。


 ――胸どころか首のあたりまでもやもやする。

 マーロウの言う通り、もやもやをぶつける相手が必要――よね?



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