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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第二章 おつかい騎竜
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49.真理

「むー。名案だと思ったんだけど」


 ユニィが唸っている。

 まだまだ未練があるみたい。


 あの後――ユニィがまた実演をしてみたり、僕が()()を取り上げて聖剣よろしく頭上に掲げてみたり。

 挙げ句の果てに、その光景をアリアさんに見つかってめっちゃ怒られたり。

 ついでにソニアにも見つかって笑われてみたり。

 ――色々。そう。色々と有ったんだけれど。


『やっぱり()()()だけはダメだよ』


 物干し台に竿を戻しながら。

 僕はユニィを諭す。


『この前ユニィも聞いたでしょ。「ホラ吹き奇術師」の逸話――最後に全てを失うって』


「それは聞いたけど――」


 食い下がるユニィ。


 ――どうしてこんなに拘るんだろう。

 ふと――思う。


 まさか――これは()()

 僕の脳裏にその言葉が過ぎる。

 運命による世界の強制力――もしそんなものがあるとしたら?


 僕は破滅の未来を幻視する。

 全てを失う――その光景に身震いする。


 ――でも。


 そんな――そんな運命なんて、僕が変えてみせる!


『ユニィ!』


 僕はユニィに宣言した。


『おやつにしよう!』


 ――難しいことを考えるのは美味しいものを食べてから。

 それは普遍にして不変の真理。

 可変かもしれない運命よりも――少しだけ重要なことなのだ。



 ――――――


 ――熱っ!


 僕は息をハフハフさせながら口の中を冷ます。


 今日のおやつは焼き紅芋だ。

 因みに、僕達脚竜族は皮を剥けるほど前脚が器用じゃないので、皮ごと丸かじりしている。

 紅芋の皮の微妙な苦みが口に残るけど――

 うん。苦みって成竜(おとな)の味。


 成竜(おとな)と言えば、マーロウの『覚成の儀』ももうすぐだったっけ。

 その後すぐに、大人になるユニィとの旅立ちで――諸国を巡って奇じゅ――


 いやいやいやいや。違う違う。

 ユニィに繰り返し聞かされたからかな?

 うっかり間違えちゃうところだったよ。

 危ない危ない。


 ここが――僕達の運命の分水嶺。

 僕はしっかりと()()しながら、ユニィに提案する。



『思うんだけど――僕達、やっぱり素直にポーターになった方が良いと思うんだ』


 ユニィの目が大きくなる。

 伝わる感情は――驚き?

 なんで? 普通こっち(ポーター)じゃないの?


 そんな僕に対して、ユニィが言葉を絞り出す。


「リーフェ。あのね」


 一言一言。ゆっくりと。


「そんな()()でも――良いの?」


 ――え? 何言ってるのユニィ。そもそも――


『僕ってクラス以外は普通でしょ?』


 ――あれ? なんで黙っちゃうの?



 結局。

 僕達はポーター見習いになる事にした。

 普通が一番だよね!




 こうして準備を整えた僕達は――巣立ちの時を待つ。


 ――時は初夏。


 芽生えたばかりだった小さな新芽が――

 その手足を広げ、若葉となって彩る季節。













 ――――――


 ――成竜(おとな)になるということ。

 俺は甘く見ていたのかもしれない。


 俺達脚竜族が成竜(おとな)になる時に行われる「覚成の儀」。

 その儀式が終わった瞬間に。

 不思議な高揚感が俺の身体を包んでいた。


 ふと気付く。

 ――これは何だ?

 高揚感で感覚が鈍っているが――身体の隅々から違和感を感じる。

 ()な感じではない。むしろ、包み込まれるような温かさを感じる。

 だが――


 ――俺の頭の中に入ってくるんじゃねぇよ!


 ()()されそうになる意識を繋ぎ止める。

 永遠にも思える刹那。

 全てが停止したかのように引き延ばされた時間。


『どうしたの? マーロウ』

『マーロウ。あなた大丈夫なの?』


 ――その終わりに気付いたのは。

 聞こえてきた親友達の声。()()を認識してからだった。


 俺は声を絞り出す。


『――大丈夫だ。何ともない』


 ――恐らくは。

 ()()を受け入れたところで、何かが起こるわけではないのだろう。


 ただ――あれが何だったのかはわからない。

 ああ、()()()()()


 俺の顔には、今――笑みが浮かんでいるはずだ。


 『――調べることがまた増えたな』


 誰にも聞こえないほどの小さな声で呟いた。



 何だか不穏な空気はありますが、これにて2章完結です。

 15〜49話の登場人物他設定を挟んだ後、3章に突入です。

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