5.価値
ツノうさおばさんの話をまとめると、こういう事らしい。
・手伝って欲しいのは薬の輸送と代金回収
・輸送は1週間から2週間に1回
・1回当たりの輸送賃は大銅貨1枚
大銅貨10枚で銀貨1枚なので、50回で返済完了。らしい。
ユニィは計算に苦労してたけど、見張りのおじさんも保証してくれたので、大丈夫そうだ。
僕? 僕は計算得意だよ? 野ネズミ3匹でツノうさ1匹分のお肉みたいなやつでしょ? 残念ながら人族のお金の価値は知らないから戦力外だね。
――というか、この見張りおじさんいつまでここにいるの? ヒマなの?
一応、断わる事もできると言われたんだけど――結局ユニィには選択肢はない。
薬は今すぐにでも必要なんだ。
「ありがとうございました」
薬を受け取り、お礼を言うユニィ。薬は大事そうに腰の辺りに下げたポーチにしまっている。
「ちゃんと働いて返して貰うんだから。気にすることはないさね」
そうそう。
働くのは僕な気もするけど、気にすることはないさねー。
それよりも、急いで帰るんでしょ?
『早く薬を持って帰るんじゃないの?』
僕が背中を向けると、ユニィが慌ててしがみ付く。
「本当にありがとうございました」
「またね」
僕はその言葉を合図に走り出す。
今は、この薬を早くユニィのお母さんに届けること。
それだけを考えながら加速した。
――――――
「慌ただしかったねぇ」
楽しそうに薬師のカロンおばさんが笑う。
俺が子供の頃からおばさんなんだが、当時と見た目が変わらない。
謎ではあるが、そこに触れることはタブーである。
子供の頃に聞こうと思ったことはあるが、気付いたら翌日の朝だった。
村の人間は、多かれ少なかれ、似たような経験をしている。
それに、今では疑問に思うことも無くなった。そういうものなのだ。
「良かったんですかい? 流行り病の薬といえば、売れば大銀貨2枚以上は確実なんじゃ? それに輸送も村の共同貨物で――」
銀貨5枚は薬の材料となる薬草の値段。つまりは原価だ。そこに薬を調合する技術費を乗せれば価値は倍以上。流行り病の薬ともなれば、市場価値はさらに高くなる。
「子供からそんなにお金はとれないでしょうが」
カロンおばさんが笑い声を上げる。
「それに。さっきの騎竜を見てたら、あの子のことを思い出してねぇ。今頃何しているんだか」
どうやら、カロンおばさんも騎竜と契約したことがあるようだ。
俺も初耳ということは、随分と前のことなんだろう。
そのまま、カロンおばさんの昔話に耳を傾ける。
――村の門の見張り?
元々誰も来ないし、暇潰しにやってるだけだから良いんだよ。そんなもん。