47.覚成の儀
――『覚成の儀』――
僕達脚竜族が10歳の誕生日に受ける儀式――つまりは成竜として認められるための儀式のことだ。
――とは言っても、実際には荷車に見立てた重りを引いた後に、長い長ーい長老の話を聞いて、儀式の祭壇の上で簡単な呪文を唱えるだけ。
毎年多くの子竜が経験する通過儀礼。
難しいことは何もない。
――そのはずだったんだけど。
――――――
『ついにこの日が来たなリーフェスト。お前もこれで立派な脚竜族だ。父さんのようになれる日も近いぞ』
『――リーフェスト――あんなに小さかったのに――』
父竜と母竜が僕に語り掛ける。
――ありがとう。父竜。母竜。
『2回進化なんてすぐに追い抜くんだから。あなたはのんびり待ってなさいよ』
『今度はどんなクラスなんだろうな。――早く見せてくれよ』
宿敵と親友が僕に声を掛ける。
――きっと凄い進化をしちゃうからね。楽しみにしててね。二竜とも。
「リーフェ。これ大丈夫なの?」
『もちろん大丈夫だよ。この前はサギリもやったばかりだしね』
ユニィの僕を心配する声に答える。
因みに今回ばかりは特別ということで、ユニィも泊り掛けで僕の村に来ていた。
「でも――」
――もしかして、昨日興奮しすぎて寝不足なのがばれたのかな?
そんな気もしたけど――気付かなかったことにした。
――僕は今。
祭壇の前で待つ長老の元へと――歩んでいる。
1歩。1歩。
後脚に力を入れながら。
1歩。1歩。
全身に掛かる負荷を感じながら。
そして――
長老の元まであと3歩程のところで重りを引く縄をその場に置き、長老の顔を見据える。
長老はそんな僕の顔を見て頷く。
『よく来たな。ブランとサーラの子。リーフェストよ』
僕はその場で頷くように下を向く。
――長ーい長ーい長老の話に対応するためだ。
この角度なら、欠伸をかみ殺しても長老にはばれない。
これは過去の先輩達が編み出した『覚成の儀』必勝法の一つ――脱落してもバレないための必須技術。その名も『覚醒の擬』なのだ。
――僕はじっと耐えた。耐えた――耐えた。
1秒が無限にも感じられる。
そんな感覚に麻痺し、緊張感に眠気が混じり始めた頃。
『――の儀式の成就を以って、この者を成竜とみなす』
――ようやく長老のありがたーいお話が終わったみたい。
息を一つ吐いた後、僕は伏せていた顔を上げる。
――さぁ、ここからが本番だ。
一歩横に退いた長老の脇を通り、僕は祭壇へと向かう。
1段。1段。
石段を昇る。
――残り1段となったところで脚を止めた。
目の前にある最上段。
そこは何の変哲もない石壇だ。
――立ち止まる僕の背後から長老の声が聞こえる。
『汝の道に祝福を』
『我が道に祝福を』
――僕も呪文の詠唱で返す。
『汝の道の始まりは今』
『我が道の始まりは今』
僕達の詠唱が交互に響く。
『汝が如何な道を辿るとも』
『我が道が何処へ続くとも』
僕は頭上を見上げる。
儀式の間の天井――そこに広がる規則性を持った紋様。
『地に根差し』
『天に拡がれ』
その紋様が仄かに光っていることを確認して。
僕は最後の1歩を踏み出しながら――呪文の最後の言葉を結ぶ。
『グロウスコア』
――その瞬間。
光が身体を包む。
その眩しさに思わず目を閉じる。
身体の表面は熱く、一方で芯は冷たい。
ぬるま湯に浸かりながらも全身が粟立っているような不思議な感覚。
尾に脚に。背に首に。
――鈍い痛みを感じる。
これが『覚成の儀』?
何か聞いていた話と違う気がする。
何より――
『リーフェスト』
さっきから僕を呼ぶ声が聞こえている。
―― ユニィの声で僕を呼ぶのは誰?
僕がその疑問を抱いた瞬間。
瞼越しに感じていた光が消えた。
儀式の終わり――かな?
僕は目を開ける。
周りには笑顔のみんな。
ユニィからも喜びの感情が伝わってくる。
だけど――
それに一番初めに気付いたのは、意外にもサギリだった。
『何落とし穴に落ちたような顔しているの? リーフェ』
その時僕は。
僕の意識は――視界の端の文字に囚われていた。
『エルダーラプトル’に進化しました』
『個体名「リーフェスト」により進化枝が成長しました』
――え? 何で?
ようやく2回目の進化。
大方(?)の予想通り想定を裏切ったところで、2章もあと2話の予定です。




