46.変化
今回短めです。
『なぁ。リーフェ』
『ん? 何、マーロウ?』
僕は、マーロウと一緒に文献を調査していた。
もちろん調査しているのは「ホラ吹き奇術師」に関連しそうな逸話の類だ。
『お前さぁ――』
僕は文字を追う目を一度上げてマーロウの顔を見上げる。
マーロウが僕の目を見た。
『本気で手伝う気あるのか?』
僕は前脚で広げていた文献を傍らに置くと、抗議する。
いくらマーロウでも、その言葉は許せないよ。
『確かに僕が読んでるのは「物語」だけど――過去の逸話が、物語として語られているかもしれないじゃないか』
僕は文献のタイトル――「天衣の巫女と失われし頭環2」――に視線を移す。
――どこにヒントがあるかなんて分からないからね。
それにほら。
「ホラ吹き奇術師の」の逸話の中にもあったじゃないか――彼は失われし聖環を懐から取り出してみせた――って。
僕はもう一度マーロウの顔を見る。目を見る。
『――それ、先月発行されたばかりの冒険物語だろ? 俺も読んだ――っていうか、俺の本棚から持ってきたんじゃないのか? それ』
僕は文献をそっと背中に隠した。
――ごめん。ちょっとだけ文献を漁ることに疲れてたんだ。
僕の反省した態度が功を奏したのかは分からないけど――はぁという溜め息と共にマーロウの態度が軟化した。
『確かに根を詰めすぎても良くないし、休憩がてら何か食いにでもいくか』
『流石マーロウ。話が分かる!』
『当然、お前が主体で狩るんだからな』
――うん。まぁそうだよね。
――――――
『――今日も空振りかなぁ』
『ま、仕方ないな。そんなすぐに結果が出るなんて、甘い訳ないだろ』
『えー。そうかなぁ――』
僕達は村の外に向けて広場を歩いていた。
文献調査はとにかく肩がこる。おなかがすく。
僕達脚竜族は動いていないと落ち着かない種族だ。
だから、調査の合間には外での狩りという休憩が必要なのだ。
『あら? 二竜でデートかしら』
『なんだよサギリ。僕達より先に『エルダーラプトル』になったからって、上から目線は無いんじゃない?』
そんな僕達の前方から現れたのはサギリだ。
彼女はつい先日『エルダーラプトル』に進化した。
そして――
『マーロウもすぐに成竜になるんだし、リーフェの手伝いばかりしてないで、自分磨きでもしたら?』
そう。『エルダーラプトル』になってから、僕達との付き合いが悪い。
今日も村の外で速く走るための訓練をしていたようだ。
誘った僕らにも『子竜は良いわね』とか言ってたし。
――それって、誕生日が少し早いだけでしょ?
サギリは今日も理不尽だ。
それと比べて――
『ああ。俺は元々「知識」を追求してるからな。全く問題なしだ。それとも――お前が代わりにリーフェと調査するか?』
おお。それでこそ我が親友。
それに比べて――僕は宿敵の目を見る。瞳の中を見る。
『――何よ』
『1か月後――』
僕は言葉を切る。
『――僕の進化を見て驚かないでよ?』
――――――
――私は最近少しおかしい。
気付いたのは成竜となってすぐ。
いつもの様にリーフェとマーロウに誘われたんだけど――思わず断ってしまった。
何故かは――分からない。
気付いた時には、断った上に『子竜は良いわね』とまで言ってしまっていた。
――私がこんな憎まれ口を叩き始めたのはいつからだろう。
随分と前で思い出せない。
でも。それでも。
なんだかんだ言って三竜で行動していたし、それが居心地良かったはず。
それなのに、今は――




