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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第二章 おつかい騎竜
46/308

45.青

今回から2章最終エピソードです。

 また――春が来た。


 草木が芽吹く始まりの季節。

 新しき旅の始まりは――同時に旧き旅の終わりを意味する。



「今までよく頑張ったねぇ」


 ツノうさおばさんこと()()()おばさんが僕達を労う。


「今までどうもありがとうございました」

『ありがとうカロンさん』


 ユニィと一緒に僕は頭を下げた。


 ――流行り病(勘違い)の薬の代金。

 そこから始まったこの長いおつかい生活も今日で最後。

 ようやく返済完了することができた。


 なかなか人族の名前を憶えられない僕も、ようやくおばさんの名前を憶えてきたところなんだけど――今後はおばさんに会う機会は減ると思う。


 そう考えると――ちょびっとだけ寂しくなるね。

 ――うん。ちょびっとだけ。


「ところで――」


 ツノうさおばさんがユニィに笑顔で話し掛ける。

 ――だけど、まだちょっとこの笑顔は苦手かな。何だか背筋が寒くなるんだよね。

 そんなことを考えている間に、おばさんが小さな革袋を目の前に置いていた。


 うーん。

 置いた時の音からするとお金だとは思うけど。

 なにこれ?


「この前持ってきてくれたトリガ草の代金だよ。そのまま食べると毒だけど加工すれば薬になるからねぇ」


 おばさんが笑顔でユニィを見る。


「――それにしても、ヨモ草と見分けがつきにくいのに良く選別できたねぇ」


 ユニィの目線が僕とは反対の方を向く。

 その仕草を見た僕は先日の悪夢を思いだ――


 否。脳が思いだすことを全力で拒否した。

 ユニィに貰ったそれ(草団子)のことは――僕の記憶にはない。



 草木が芽吹く始まりの季節。

 野草の芽吹く採集の季節。


 僕の契約者(パートナー)には野草採取(毒草採取)才能はない(才能がある)ようだ。



 ――――――


 僕達はツノうさおばさんに改めて別れを告げると、村の門へと向かう。

 顔見知りの見張りおじさんこと――名前なんだっけ――にも別れの挨拶をするためだ。


 ――正直な気持ちを言うと、ユニィの村からは隣村だしすぐに来れるんだから――って僕は思うんだけどね。

 ユニィに言わせると、()()()っていうやつらしい。

 真面目だなぁ。


 門が近づくと、その傍にいつもの通り見張りおじさんがいた。

 うん。やっぱりいつもの通り暇そうだね。

 だけど首にはならないみたい。相変わらずだけど不思議不思議。


「こんにちは」


「おーこんにちは。今日はもう帰りか?」


 ユニィの声に見張りおじさんがこちらを振り向く。

 おじさんも初めの頃に比べると、ずいぶん打ち解けた――気がする。

 特に話す時の口調とか。


「そうです。それであの――」


 ユニィが頭を下げて下を向く。

 僕も前を向いたまま、一緒に頭を下げておいた。


「今までありがとうございました」

『ありがとうおじさん』


 おじさんの口元だけが少し笑顔になる。


「あぁそうか。もう返済し終わったんだな。――おめでとう」


 おじさんが右手を差し出した。

 ユニィは下を向いていて気づいていない。


 だから、代わりに僕が左前脚をその手に乗せておいた。

 これって人族の良くやる「握手」ってやつだよね。うんうん。僕も知ってるよ。


 ――何故かおじさんの眉毛の間が狭くなった。


 ――あれ? どうかしたのかな?

 そう思ったけれど、おじさんは一瞬で元の顔に戻る。


「おめでたいけど――また暇になるなぁ」


 ――いやいやいや。ずっと暇でしょ?



 ――――――


 二人への挨拶を終えると、僕達はユニィの村に向かって山道を下る。


 ――ユニィと出会ったのはこの道の途中なんだよね。


 ふっと思い出す。


 まだ1年経っていないのに、あの時のことはずいぶん昔のような気がする。

 あの頃はゴブリン(G)がいっぱい湧いていたけれど――以前駆除してからは全く見かけなくなった。


 山道を下る。

 林の中を。木々を足場に跳びながら走る。


『――ポケット』


 木々の切れ目には足場を作りながら、そのまままっすぐに山を下る。


 術の使い方(応用)にもずいぶん慣れてきた。

 そして何より――


 僕はその直径5().()2()c()m()の黒い穴に足を掛けると、逆方向へと跳ぶ。


 ――そう。

 僕は。僕達は徐々に――徐々に成長しているのだ。


 ユニィにそう言ったら「初めからこんなものじゃない?」とか言われたけれど――断じて違う。

 僕の目測能力を侮ってもらっては困る。

 この能力は、激しい戦い(父竜とのおやつ戦争)の中で研鑽された能力(匠の技)なのだから。



 草木が芽吹く始まりの季節。


 林を抜け――広がるのは若草の青。

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