40.ポーターと子供達
「ここが運送ギルドかな?」
『多分そうだよ。ほら』
僕達は、南門前の広場に面した大きな建物の前にいた。
その建物にはさっきから何竜もの脚竜族が出入りしている。
騎竜契約者の半数がポーター――という薬師ギルドでの話を考えると、ここが運送ギルドで間違いない――と思う。
ユニィも分かってはいると思うんだけど――ちょっとしり込みでもしてるのかな?
――ちなみに、ここまでの道順はラズ兄ちゃん達に教えて貰った。
お小遣いも貰ったし、やっぱりラズ兄ちゃんは優しいな。
巨人のタインさんとはあまり話せなかったけど――ユニィはすっかり打ち解けてたみたい。
また今度ユニィと一緒に遊びに来ようかな。
僕がそんなことを考えている内に、ユニィの覚悟も出来たようだ。
小さく握りこぶしを作っている。
「行こう。リーフェ」
僕達は並んでその建物の中に入った。
――――――
人の判断力は簡単に低下する。
私はその日もギルドの休憩所で休息をとっていた。
別にさぼっていたわけではない。
仕事を終えた後の体を休めるため。そして――新たな情報を得るためだ。
私達ポーターは、その名の通り人や物を運ぶだけの仕事――と世間では思われているかもしれない。
まぁ、その認識は概ね正しい。
確かに、人や物を目的地へと運ぶこと。それが私達の仕事だ。
だけど――そこには確実にという言葉が付け加えられる。
道路事情や魔物の発生状況は当然。確実性を求めるなら各国の景気、政情から流行りの娯楽に至るまで。
情報はいくらあっても困るものではない。
これができない奴はいつまで経っても三流だし、いつの間にか姿が見えなくなる。
だから私はギルドで休息をとる。
――決してさぼっているわけではない。
例え右手にアルコールの入った器が握られていようと――だ。
その日の情報は――新たな騎竜持ちの話題だった。
何でも、門の外にいるところを見た奴がいるらしい。
しかも契約者の方は、成人したかしていないかといった年頃の少女。
こいつは期待の新人か?
――ってことで、いつもよりも人が多い。お前達暇だな。
話題の騎竜持ちが現れたのは、昼も大きく回った時間だった。
――こどもじゃないか。一目見て思う。
いや。契約者の方ではない――騎竜の方の話だ。
見た事のない模様をしているが、あの大きさはリトルラプトルのはずだ。
私の胸の中で好奇心が膨らむ。
――私の記憶が確かなら――普通、子竜の脚竜族は契約をしない。
だが、実際にそれが目の前にいる。
私は思わずその子達に声を掛けていた。
いつもより酔いが回っていたのだろうか。
ああ。
――人の判断力は簡単に低下する。
――――――
「なるほど。ポーターの仕事には、人を輸送する仕事、物を輸送する仕事、人に付いて荷物を持ち運ぶ仕事があるんですね」
「そうだね。一括りにポーターといっても色々だよ。使うものは鞄一つだったり、馬車や竜車だったり。この辺ではいないけど、船を使う奴もいるんだ」
僕達は運送ギルドの休憩所――みたいな所のテーブルを囲んでいた。
今僕達に色々教えてくれているのは、ジョディさんという黒髪のお姉さんだ。
突然僕に声をかけてきた時はびっくりしたけど、僕の返事が聞こえていないのにもびっくりした。
てっきりどこかの誰かの契約者で、僕の声が聞こえるものだと思ったんだけど。
――あと、まだお昼なのにちょっとお酒臭いのにもびっくりした。
さっきから飲んでるの――お酒だよね?
そんな風に、酒好きお姉さんからポーターの話を聞いている時だった。
「そこを何とかお願いします!」
その声に思わず振り向く。
僕の目に入ったのは受付のカウンター。
――その前で、薄汚れた格好の少年が大きな声を上げていた。




