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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第一章 芽生え
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4.薬師とお金と友情と

 視界の隅に浮かぶ文字。

 この感覚は――進化樹のスキル?


 気になる――けれど。

 今はユニィのことが優先だ。

 僕は少し呆然としたユニィに告げる。


『早く僕に乗って。急がないと。つかまり方は――わかるでしょ?』


 僕の()を聞くと、ユニィは少し驚いた顔をしながら頷く。

 そこまでは知らなかったのかな?

 でも、今はそれを説明している暇はないよね?


 僕はユニィに背を向ける。

 ユニィは僕の背に足を掛けて背に跨ると、首筋にしがみ付く。


『じゃあ行くよ?』


「うん」


 目指すは山の向こうの「隣村」。

 僕は前傾姿勢をとると、後ろ脚に力を入れ、一気に加速する。

 一歩毎に。加速する毎に。ユニィのしがみ付く力が強くなる。

 その温もりを感じながら。

 僕はただ走る――



 木々の間を縫うように、でもスピードはそのままで。

 走る。走る。

 ふと気づくと、ユニィのしがみ付く力が弱まっていた。

 ようやく()()()()のかな?



 友誼の儀――

 それは絆を強化する儀式。

 その効果は精神的なものだけでなく、身体的なものとしても現れる。

 具体的には、体同士が触れると、どちらかが意図しない限り固定された状態になる。

 つまり、背中に乗って掴まると、そのまま振り落とされずに乗っていられるという寸法だ。

 まぁ、そうでもないと余程の騎乗能力がない限り、僕らの本気の機動力にはついて来れないと思う。

 だから、ヒト族の中には僕らに騎乗するためには友誼の儀が必要だと勘違いしている人がいるんだよね。

 ――ノルム爺ちゃんや、ラズ兄ちゃんもそう言っていた。


 まぁ、今も斜面を駆け上がる為に、木の幹を足場にして、さながら立体機動という状態だからね。

 しがみ付くだけでも困難。乗りこなそうなんてのは、どう考えても無理だよね。



 走り始めて20分。

 距離にすると10km以上は走ったかな?

 ようやく「隣村」が見えてきた。

 因みにユニィに出会ったのは、ユニィの村から1、2kmの場所みたい。

 いくら何でも無茶しすぎだよユニィ……


 そんな事を考えながら村の門を駆け抜ける。

 見張り役の人が何か言っていた気がするけど急いでいるんだ。

 ごめん。後でねー。


 薬師の家の前に到着すると、ユニィは僕の背中から急いで降りる。

 そのまま戸を開けて中に駆け込むと、声が聞こえた。


「カロンさん。薬を。くす――」


 気持ちはわかるけど、きちんと伝わるのかちょっと心配。

 もっと落ち着いた方が良いと思う。


「どうしたんだい。ユニィ――」


 中から女性の声がする。

 ほらね。とか思っていると、村の門の方からさっきの見張りの人が走ってきた。

 さっきは良く見えなかったけど、こうしてみると強そうなおじさんだね。

 ご苦労様です。


「騎竜? しかも子供? 一体誰が?」


 僕の方を見ながら首を傾ける。

 僕も真似して首を傾けてみた。いや。何となく。

 しばらくすると、彼も家の中から誰かの声が聞こえてくることに気付いたようだ。

 そのまま中に入っていった。

 後には首を傾けたままの僕。ちょっと寂しい。



 ――家の中での話は終わったようだ。

 中からユニィとさっきの見張りおじさんと。そして見慣れぬおばさんが現れた。

 この人がカロンさん?



「あー。話はわかったんだけどね。ユニィちゃん」


 おばさんの眉間の皮がうねうねしている。困った顔かな?


「あんたお金とか持って――ないわよねぇ」


 うわぁ。無茶というよりは無計画だよユニィ……


 おばさんがこちらを向く。――マズい。

 咄嗟に僕は首をさらに傾ける。『お金って美味しいの?』のポーズだ。

 ごめんねユニィ。友情はお金で簡単に壊れちゃうからね。

 いや。ほんとにお金なんて持ってないだけなんだけど。


 おばさんが溜息をつく。

「はぁ。流行り病の薬は銀貨5枚。そう簡単に払えるわけがないし――」


 おばさんがこちらを見る。


「騎竜を売る?」


 ユニィが陰のある顔でこちらを見る。これ絶対思い詰めた顔だよね?

 友情はお金で簡単に壊れちゃうからね!?


「まぁ、契約してるんだろうから無理だけどねぇ」


 ――脅かさないで下さい。


「それじゃあ、あたしの仕事を手伝って貰うしかないねぇ」


 おばさんがまた眉間をうねうねさせて言う。

 こちらをチラチラと見ている。


 うーん。初めから考えていたんじゃないの? これ。

 眉間がうねうねしてるからそっちに目が行ってたけど。

 目の雰囲気が獲物を狙う時のツノうさぎの目だよ。これ。


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