表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第二章 おつかい騎竜
39/308

38.語るに落ちる

「まだ11才なら、ギルド登録していないのも無理はないですね」


 赤髪お姉さんはユニィの話に納得したようだ。

 お届け物の手続きを早々に済ませた僕達は、カウンター脇のテーブルでお姉さんから話を聞いていた。


 お姉さんの話によると、()()()を持ってきたのが()()を連れた若い子だったので、ポーター(運送屋)見習いかと思ったようだ。

 何でも、この町の騎竜契約者の半数はポーターの仕事についているらしい。


 ポーターの話を中心に、雑談に花が咲く。


 ――受付してなくても大丈夫かって?


 薬師ギルドが薬の取引をまとめているといっても、窓口を介さない大口の取引がメインとなる――らしい。

 なので、ギルドの窓口業務は薬師相手の事務手続きを中心に行っている――つまり人はあまり来ないので暇なんだそうだ。


 ちなみに、薬師がギルドに来たときは受付をベルで呼び出すらしい。

 確かに良く見たら、カウンターの脇に金色のベルが置いてあった。



 さて、ユニィはまだまだ話を聞きたいようだけど――


『ねぇユニィ。そろそろ行こうよ』


 そう。僕の腹時計はもうとっくに12時を回っている。

 それに――


『ポーターのことは運送ギルドで聞いたほうが良いんじゃない?』


「――うん。それもそうだね」


 僕の説得が功を奏したのか、ユニィが席を立つ。


「お時間を取らせてすみませんでした。今日はありがとうございました」


「いえ。こちらこそ引き留めてしまったみたいで申し訳ありません」


「あの――先程話に出てきた運送ギルドなんですが――この町のどこにあるのでしょうか?」


「ああ。それなら南門の近くですよ。この町の玄関口なので、すぐに分かると思いますよ」


 僕達はお姉さんにお礼を言って、薬師ギルドを出た。



 ――――――


『ユニィ。落ち着いて状況を整理しよう』


 僕はユニィを背中から降ろすと、正面から向き合った。

 ユニィの顔は――売られる時の斑牛(まだらうし)の顔だ。とても暗い。


『まず、薬師ギルドを出た僕達は、隣のお菓子屋でクッキーを買った。おいしかった。そうだね?』


「うん」


 ユニィの顔が少しだけ明るくなる。

 良い兆候だ。


『次に、僕達は昼食を兼ねて中央広場の屋台でツノうさの串焼きを買った。おいしかった。――ここまでは間違いないね?』


「うん」


 ユニィの顔がまた少し明るくなる。

 ――よし! この調子だ。


『そのまま――僕はラズ兄ちゃんおすすめのカラメル焼の屋台に向かった。でもここで――思わぬ事態が発生したんだ。――そう。お小遣いが。お小遣いが足りなくなったんだ――』


「うん」


 ユニィの顔が一気に暗い顔に戻る。

 僕も悲しくなってきた。

 ――いや、そんな場合じゃない。ここから先が重要なのだ。


『仕方なく、僕達は運送ギルドに向かうことにした。――ああ。だけどここに僕達を陥れる巧妙な罠があったんだ』


「そう――なの?」


 ユニィが疑問の声を上げる。

 ――うん。良い反応だ。


『そう。気落ちして運送ギルドに向かう僕の鼻に、甘い――甘い匂いが届いたんだ!』


 僕は天を仰ぐ。


『そして――気付いた時には――どっちが運送ギルドかわからなくなってたんだ――』


 仰いだ天には――青空の他は何も見えない。

 目を閉じると、どこからか楽し気にはしゃいで笑う子供達の声が聞こえる。


 ――悲しい。そう――これは誘惑に抗えない竜の性(ひとのさが)が生んだ悲しい出来事だったんだ。

 僕は見上げた顔を元に戻し、そっと目を開けた――



 ――ユニィが僕を無言で見ていた。



 ――ごめんなさい。

 この前マーロウに借りて読んだ()の真似をしてみたかったんです。


 ユニィにちょびっと怒られた。




 ――でもね。

 少しだけど――ユニィの元気を取り戻すことができたみたい。良かった。



 ――――――


 状況確認(元気付け)が終わった後。

 僕達は行動を開始することにした。


 道行く人がいれば道を尋ねるんだけれど、さっきから人の姿が見えない。

 ――とはいえ、道に迷ったといっても町の中である。

 道を進めばどこかには出るし、いざとなれば――住人にめっちゃ怒られるのを覚悟で、建物の屋根の上を走り抜けることもできる。


 だけどまずは――


『ポケット』


 頭上3mぐらいのところに『ポケット』を発動する。


「リーフェ?」


 ユニィが疑問の声を上げる。

 僕はその声には答えず、頷きだけを返すとその場から距離をとる。


『えいっ!』


 助走をつけてジャンプし、『ポケット』を足場にさらに上へと蹴り上がる。

 目線の先に再び『ポケット』を発動してもう一度上へ。

 最高地点で周囲を見回し地面に降りる。


 ここ数日の特訓の成果だ。

 まだ2回連続までしか跳べないけど、ユニィの補助があればもう少しいけそうな気がする。

 ユニィを見ると少し目を大きくしていて――わずかに驚きの感情が伝わってくる。


 ――と。それよりも。


『ねぇユニィ。あっちが門みたいだよ』


 高いところからだと、町を囲む石壁が見える。

 門のある方向もすぐに分かった。


「う――うん。そうだね行こうか」


 何か言いたげなユニィを促して、背中に乗せて門へと向かう。

 ここを真っ直ぐ行って、あの角を曲がって――そう考えている中で、ふと気付いた。


 ――あれあれ? もしかして、さっきの僕ってカッコいいかも?


 普段はふざけているようでいて、やるべき時にはビシッとキメる。

 そして――無言で語る背中。


 ――うん。これだ。

 次からはこの路線で行ってみよう。



 ――余計なこと(背中で語る言葉)を考えていたんだと思う。


「――ぇ。リーフェ。ねぇ!」


 僕が気付いた時には、道の両脇に色とりどりの花が咲いていた。



 ――ここどこ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ