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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第二章 おつかい騎竜
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36.町に向かう道

「町――ですか」


 いつものお使いが終わって帰ろうとしたところ。

 ツノうさおばさんが僕達を呼び止めた。


「そうさね。次はフォリアの町のギルドに持っていってもらいたいものがあるんだよ」


『ギルド?』


 僕は聞き返す。


「薬師ギルドはねぇ――薬の調合や処方の取決め、それと流通を取りまとめているギルドさね」


「――わかりました。頑張ります」


 ユニィの返事は良いけれど、同時に少し不安の感情が伝わってくる。

 新しい場所だしまた道に迷わないように――かな? うん。でも、大丈夫だけどね。


「それは助かるねぇ。それじゃあ次回は朝早めに来てもらえるかい?」


「構いませんが――なぜでしょうか?」

『なんで?』


 僕も一緒になって聞く。


「あー。それがねぇ――実は薬師ギルドの受付は午前中しか開いていなくてねぇ。早めに出ないと間に合わないんだよ」


 えー。朝は微睡んでいたいのに。

 僕は目線でユニィに助けを求める。

 ユニィと目が合う。

 すかさず、ずぶ濡れの子猫の目(悲しげな表情)をして見せた。


「わかりました。早めに来ますね」


 ――ああ。僕の味方はどこにもいないみたいだ。


 僕は周りを見回した。

 明日の方角を向く(黄昏れる)ためだ。


「あぁ、そうだ。午前で用事は終わるから――終わったら町を見物してくれば良いんじゃないかい? 少しだけどお小遣いもあげようかねぇ」


『僕、頑張るよ!』


 魅惑の言葉に。

 僕は反射的に答えるとツノうさおばさんの方を向く。


 ――笑顔のおばさんの顔がそこにあった。

 なぜか背筋がぶるっとした。



 ――――――


 ――寝不足の目に朝日は眩しい。


 今日はフォリアの町へと向かう日。

 今日の予定は、昨日寝床の中で何度も予行演習済。忘れ物もない。

 ()()()()からの事前情報も入手済。

 準備は万端。さぁユニィを迎えに行こう!



「ねぇリーフェ。本当に大丈夫?」


 ツノうさおばさんの村を出発してすぐ。ユニィが僕に聞いてくる。

 ユニィはまだ不安そうだけど――心配はいらない。


『大丈夫だよ。フォリアの町への道は、ラズ兄ちゃんにしっかり聞いてきたから』


 そう。フォリアの町は従兄のラズ兄ちゃんの契約者(パートナー)が住む町なのだ。


 町までの近道もおいしいお菓子屋への道も。

 お肉がおいしい屋台もおいしいお菓子の屋台も。

 ついでに、薬師ギルドの場所もその隣のおいしいお菓子屋の場所も聞いてある。


 ――我ながら完璧だ。


「そう――なの? それじゃあ今日はリーフェにまかせるね」


『うん。まかせてよ!』


 僕は元気よく返事した後、まず手始めにラズ兄ちゃんの教えてくれたフォリアの町への近道を辿ることにする。


 ――まずは村を出たら森を右手に白髪山の方へと向かって、それから――

 そこまで考えたところで僕は足を止める。


「リーフェ? どうしたの? まさか、もう道に迷ったの?」


 ――ふふふ。まさか。


 ラズ兄ちゃんの教えてくれた近道。それは当然()()()()()()近道だ。

 ツノうさおばさんの村に寄り道なんてしない。


 ――だけどね。


 僕はマーロウのようにニヤリと笑みを浮かべると、皮袋から地図を取り出す。

 先程ツノうさおばさんに借りた地図だ。


『僕がいつも――いつまでもうっかりしてる(今までの僕)だなんて思わないでね!』


 僕は地図の上にラズ兄ちゃんから聞いた近道を爪先で書き込んでいく。

 そのルートは僕の村からほぼ直線だ。


 ――どう? ユニィ。

 僕の成長を――見てくれた?


 僕は振り返り背中のユニィを目の端に映す。

 この角度からは左斜め上15度の(カッコ良く見える)アングルは作れない。

 その辺りは浅めの振り向き加減と口元の笑みで補填するのだ。

 

『こうやって、普通の道とラズ兄ちゃんに教えてもらった近道が交わる点を見つければ――迷わずに近道できるんだよ!』


「……」


 ユニィが少し目を大きくして僕の手元を見ている。

 驚きに声も出せないようだ。

 期待通り――いや、期待を超える反応で僕もうれしい。

 


 ――さて、それじゃ出発しようかな?

 僕は地図に目を落とす。



『……』



 ――交点なんてなかった。


 うん。当然そうだよね。

 直線上(近道)から外れて寄り道してるんだからそうなるよね。



 僕は地図をそっと皮袋に入れた。

 ユニィの目を見ることはできなかった。


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