32.何がどうしてこうなった
今回視点変更多めです。
『どうしてこうなったの?』
僕はそれを目の前にして思わず呟く。
でも、少し考えれば当然の結末だよね――
ちょっと泣きそう。
――――――
「何をどうすりゃこうなるんだ?」
俺は疑問を禁じ得ない。
今も思わずその疑問が口をついて出た。
――それだけ、目の前にあるのは異様な光景だった。
傍らのマルクさんとバーツを見る。
バーツはともかく、マルクさんは表情こそ変えていないが――それでも二人ともその光景から目が離せないようだ。
――良く分からねぇな。
騎竜に乗った女の子を見る。
彼女も呆然としているようだ。
騎竜の方は――そもそもずいぶん前から呆けてやがる。何の参考にもならない。
――やっぱ良く分からねぇな。
俺は先程の出来事を思い返してみることにした――
――――――
「――止まれ」
マルクさんが小声で俺達に合図する。
視線の先には蠢く人影が三つ。
――密猟者だ。
「さぁ、ここからは時間との勝負だ――」
視線を追って俺も理解する。
時間が経てば経つほど薬草は摘まれてしまう。
捕まえるだけでは意味がない。被害を最小限に食い止める必要があるのだ。
バーツと顔を見合わせる。
「俺とバーツで左右からマルクさんの所に追い込むというのはどうでしょうか?」
マルクさんが少し考えた後――微笑む。
――合格だったようだ。
「それでいこう。頼んだよバーツ。アール」
制圧は一瞬だった。
俺とバーツの奇襲で二人、逃げ出した一人をマルクさんが一撃。
それであっけなく終わり。
まぁ、薬草の密猟者なんてそんなものか。
密猟者を跪かせて後ろ手に縛りながら――先程から視界の端にちらつく尻尾に思わず頬を緩める。
――あまりに簡単に事が済んだため、気が抜けていたのかもしれない。
マルクさんがナイフをその茂みに向けて投げた時。
俺には何の反応もできなかった。
――――――
『――もう、終わったみたいだね』
視線の先では見知らぬ人達――恐らく密猟者――が跪いている。
僕は様子を窺っていた草の切れ目から頭を引っ込めると、小声でユニィに囁く。
「――うん」
答えるユニィの声は、囁きというより――呟きのようだった。
あの後、溢れる高揚感に従って駆け出したのは良いけれど――高揚感でバランス感覚が良くなる訳がない。
それどころか、無理をしてしまう分悪くなる側で――結局、ここに来るまで何度も足を踏み外してしまった。
――冷静になってみたら、当たり前のことだよね。反省。
あーあ。
全身ずぶ濡れだしおなかもすいてきたし、夏とはいえ寒いしおなかもすいてきたし、もう全て終わってるみたいだしおやつは全部食べ終わってるし。
僕も悲しくなってきたよ。
「怒られるかもしれないけど――出ていこうか」
そんなことを考えていると、ユニィが囁く。
うん。仕方ない――よね。
僕がユニィに返事をしようとした時だった。
「ふっ!」
声が聞こえたと同時。頭上を横切る銀閃。
僕もユニィも驚きに声が出ない。
――だけど。その人は違ったようだ。
「くそっ」
僕達の後ろの茂みから声がした。
同時に髭面のおじさんが茂みから転がり出てくる。
僕は咄嗟に身構えたけど――どうやら髭おじさんは逃げるみたい。
僕達とは反対の方向に逃げていく。
――僕は内心ほっとする。
「行くよ! リーフェ」
でも、ユニィは違うみたいだね。
だけどねユニィさん。
ちょっと落ち着いてね。周りを良く見よう?
『ユニィ。大丈夫だよほら』
僕達から見て髭おじさんの向こう側。
そこには既に金髪少年の姿がある。
そして――
「お説教は後です」
黒髪お兄さんと――少し遅れて黒髪少年がやってくる。
1対3。
挟み込んだ形。
もう逃げ場はない。
――そう思っていたのに、髭おじさんがすぐ傍の茂みに隠れる。
あれ? そんなところに隠れてどうするの?
僕が疑問に思った瞬間。
「しまった! 小舟か!」
その茂みに近づいていたお兄さんが叫ぶと同時。
茂みから手漕ぎの小さな舟が滑り出すのが見えた。
湿原に広がる沼の深い場所を渡って外周側に抜けようとしているようだ。
見る間に離れていく小舟。
お兄さん達も見送るしかないようだ。
ああ。
――僕はそれを見ながら一つ。
――一つだけ思いついた事があった。
普段の僕なら実行に移していたかどうか分からない。
だけどこの時の僕には――高揚した気持ちが少し残っていたんだと思う。
躊躇いはなかった。
『ポケット』
僕はその『キーワード』を呟く。
おでこの下、目と目の間に向けて冷たいものが集まる感覚。
――いつもより多い?
疑問に思ったと同時、目線の先に直径20cmほどの黒い穴が現れる。
――その穴に入る大きさのものは、どんなに長くても――つながっている限り連続して吸い込まれていく――
そう――僕の予想に間違いがなければ、形が変わるものでも。
沼の水が渦を巻く。
水底近くの穴に向かって流れ込んでいく。
小舟に抗えるはずもない。
数分後。そこには、呆然とした髭おじさんと横倒しの小舟が残っていた。
そして――
僕は忘れていた。
それを見るまでは。
『あー! 僕のネザツレ草!』
無残にも水に揉まれてぐちゃぐちゃになっていた。
――ちょっと泣きそう。
誤字報告頂いた方、ありがとうございました。




