3.友誼の儀
「私と契約を結んでください!」
うーん。
嫌な予感的中。
契約って『友誼の儀』のことだよね。多分。
まぁ、騎乗スキルなんか持っていないだろうし、そういうことだろうと思ったけど。
でも、僕まだ子竜だよ。そりゃ、ユニィも子供だけど。
お酒と友誼の儀は成竜になってから! って、うちの母竜も言ってたよ?
まぁ、父竜は子竜の頃からこっそりお酒を飲んでたらしいけど。
――悪い成竜の真似しちゃ駄目だからね!
そんなことを考えていると、こちらの雰囲気の変化に気付いたのか、ユニィの声が必死さを増す。
「急がないといけないんです。母が、母が流行り病に倒れたんです」
お気楽だった僕の思考が停止する。
だが、彼女の言葉は止まらない。
「でも、うちの村の薬は、切らしていて」
徐々に下がるユニィの視線。
そんなユニィから視線を外せない。
「だからすぐに、薬が、必要――なのに――」
徐々に詰まる声。
声――脳裏によぎるのは誰の声?
「薬師が――隣――村にしが――ぐずっ――いなぐ――」
握った手はその震えを隠せない。
――握った手はその震えを隠せない。
「やま――ごぇ――きゃりゅ――なら――」
――もういいよ。
何故かは分からない。でも、必死に言葉を継ぐユニィを見ていると。
心が。記憶が。揺り動かされる。閉じていたはずの記憶の扉の隙間から漏れ出る。そして――零れ落ちる。
母竜ではない――亡くした母の顔。
その顔が浮かんだ瞬間――僕は、ユニィの額に自分の額を押し当てる。
――さよなら。まだ見ぬ勇者様と6回進化。
『絆よ 原初の名の下に綾なせ リンクスルート』
たったこれだけ。
僕でも覚えられる簡単な言葉。
だけど、その最後の一句を発した瞬間。
目を開けていられないほどの光が周囲を包む。
そして、触れている額からお互いの知識が。記憶が。感情が流れ込む。
ユニィの村の位置。隣村の位置。
母の笑顔。怒り顔。寂しげな横顔と倒れ伏す姿。幼い妹の泣き顔。
喜び。悲しみ。焦り。そして大きな恐怖。
全てがわかるわけでは無いけれど、深い根源で繋がっている感覚。
これが絆。これが友誼の儀。
そして――
『ユニィ。僕の名前を呼んで』
最後の仕上げ。終始驚いたような顔をしていたユニィが。少し思案した後。
記憶の中のその名を呼ぶ。
「リーフェスト」
僕の名前を楔として儀式が完結する。
僕とユニィとの間に繋がった絆が、深く絡まり強くしなやかに固定される感覚。
高揚した気持ちそのままに。儀式の余韻に浸る僕。
そんな僕にそれは突然訪れる。
『リトルゼノラプトルに進化しました』
『個体名「リーフェスト」により新たな進化枝が発芽しました』
――え?