283.導き
――『インスペクト』。
再び頭上を見上げた俺は、迷わず術を起動する。
先程は思考を誘導されてしまったが、その事が分かっているのであれば問題はない。
再び流れ来る情報に目を向ける。
情報の中に紛れ込む『力』の流れ。
微小なそれを意識し、受け流すように。
情報のみを読み取っていく――――だが。
すぐに、先程とは情報の流れが異なることに気付いた。
こいつは――思考を誘導する『力』が強くなっているのか?
いや、もちろん。
今も『力』が微小であることには変わりない。
だが――その微小な『力』が、感じ得る限り徐々に徐々に増しているのだ。
まるで、俺達が長年術を使い続けることで成長し、その範囲や威力が増すように。
しかし――俺の頭には、同時に疑問が浮かぶ。
――仮に成長だとしても、いくら何でも早すぎるんじゃねぇか?
それに――先程まではこのような明確な『力』の増加は無かった。
突然。しかも急激に成長するとなると――やはり、単なる成長とは考え難いのでは?
いや――
俺は頭を振った。
今重要なのは、なぜ成長しているのかではない。
それも興味をそそられる話だが、今は。
どのようにしてこの成長を止めるかの方が重要だ。
このまま放っておいては、また思考を誘導されてしまうかもしれない。
そうなってしまっては楽しめるものも楽しめないだろう。
そうだな――何か。何か手掛かりは無いだろうか。
俺は記憶を辿る。
この場所、そして芯理の央樹についての情報は。
全て魔人族の集落で入手したものだ。
その中で手掛かりになりそうなのは――魔人族の老人との会話で得られた、一つの言葉。
確か――「選ばれし者は、芯理の央樹に導かれる」だったか?
芯理の央樹。
その場所とそこに至る足跡ばかりに注視していたので、この言葉の意味についてはあまり深く考えていなかったが――
そのまま俺は。
再度。今度は大樹全体を俯瞰するように『力』の流れを注視して視た。
すると先程のリーフェの言葉通り、俺以外の皆にも『力』が作用していることが分かる。
つまりは――先程の俺と同じように思考を誘導されているのだろう。
そう思っていたが――ふたりだけその様相が異なっていた。
一人はユニィ。
恐らくそのスキルに起因するものと思われるが、一人だけ流れ込む『力』が強い。
少なくとも他の3倍は流れ込んでいるだろう。
もう一竜はサギリ。
他の皆と同じ様に大樹からサギリに『力』が流れ込んでいるのだが――
サギリから大樹にも同種の『力』が流れていた。
――ユニィはともかく。サギリのこれは一体どういうことだ?
俺は――自然と自らの口角が上がるのを感じていた。




