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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第二章 おつかい騎竜
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28.湿原に咲く花

 木々の間を駆け抜ける――


 目前に迫る木立の切れ目。

 次の瞬間、僕達の前にその視界が開けた。


「わぁ――」


 ユニィが思わず驚きの声を上げるのも無理はない。

 そこには一面の青い草原。そして草原の中に時折きらめく水面。


 僕も村のみんなと行く()()で、色々な所に連れて行ってもらっているけれど、ここまで景色の良い場所はなかなか無い。


『ねぇユニィ。早く薬草探そうよ』


 ――だけど、見惚れていてもしょうがない。僕はユニィを促す。


「う――うん。そうだね――」


 うーん。

 やっぱり、ユニィの返事は歯切れが悪い。なんでだろ? 

 それに――何だかユニィから不安定なふわふわした感情が伝わってくる。

 ――もしかして、失敗することを怖がっている? まさか。ユニィが?

 やっぱりおかしいよ。


『どうしたのユニィ? いつも自信満々のユニィらしくないよ?』


「――えっとね」


 ユニィが――ポツポツと話し始める。


「カロンさんのところで、話したでしょ――私がヨモ草ぐらいしか薬草採取したことがないって」


『そうだね。でも、サンプルも借りたし大丈――』


「だけどね!」


 僕の言葉はユニィの声に遮られる。


「私がヨモ草を取りにいくとね! みんな。みんなお腹を壊すの! それでみんな「ユニィちゃんにはまだ早いかな?」って。だから――だから――」


 僕は察した。そう。今日の僕は少し大人なのだ。


『大丈夫。大丈夫だよユニィ』


 僕は振り返って背中のユニィを見る。

 ――ああ。また濡れ猫顔になっている。


 僕はユニィの不安な気持ちを取り除く。でき得る限りの優しい声で。


『――僕のお腹はとっても強いから』


 ――――――


『まだ痛いよー。ユニィ』


「ごめんね。リーフェ」


 あの後、激しく泣いたユニィに頭をポカポカ叩かれた。

 大人になるって大変だ。

 ――だけど、ひとしきり泣いてユニィも落ち着いたみたい。


『とにかく――サンプルもあるし、最悪ツノうさおばさんが見てくれるんだから問題ないよ』


「そっかぁ――うん。そうだよね。カロンさんが最後は選別してくれるもんね」


 ユニィの表情が少し緩む。


 おそらく、ツノうさおばさんもその辺りは織り込み済――と思うことにした。

 お駄賃(おかし)は減るだろうが、ユニィの笑顔には代えられない。僕達の友情()は決してお金には代えられないのだ。



 気を取り直した僕達は湿原に生えている草に近づく。

 地面がぬかるんでいるので、ユニィは背中に乗せたままだ。


 ――ツノうさおばさんの話では、白い小さな花が咲いているらしいけど――

 僕はユニィの手元のサンプルを見る。

 乾燥しているので花の色はわからない。ただ、確かに花は小さく、葉っぱは細くて枝分かれしている形だ。


「これだね!」


 ユニィがひとつの草を指さす。

 ――うん。お花は白いけど大きいし、葉っぱが丸いよね。


『ユニィ。違うよ。もっと手元のサンプルを見た方が良いよ』


「そう? うーん。確かになんか違うね――あっあれ! 今度こそネザツレ草だね!」


 ――あっ! まだ摘まないで。それ違う草(葉っぱが真っすぐ)だから!


 ――――――


 ユニィを背に湿原の外周を歩き回ること5分。

 背中から手を伸ばすユニィを何とか思い留まらせてたんだけど――


『薬草見つからないね』


 一向にネザツレ草らしき草は見つからない。

 ちょっと場所を変えたほうが良いのかな?


「ねぇ、あっちの方に行ってみようよ」


 ユニィも同じ気持ちだったらしい。でも――


『ユニィ。そっち(湿原の中心)の方は危ないよ?』


 実際に歩いて分かったけど、湿原は水の見えるところに近づくほどぬかるんでいて、もの凄く歩きにくい。

 この辺り(外周部)だと何とか走れそうだけど――中心部に近づいたら、歩くことすら困難になるんじゃないかな? 多分。


「でもね。あっちに道みたいなのがあるよ」


 言われて僕もユニィの視線の先を見る。

 そこには、ところどころ木の板を渡した()が見えた。

 

 ――そうか。そうだよね。

 ここに来るのが大変だからといっても、薬草採取しているのは僕達だけではないんだ。

 ――いや、むしろこれを生業にしている人が居たっておかしくない。

 それを考えると、採取のしやすい外周部に薬草が残っている訳がないよね。


『そう――だね。道を辿って行ってみようか』



 この時の僕は少し油断していたのかもしれない。

 ぬかるんでいても、(木の板)の上なら走れる――って。


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