277.最後の手段
目の前に静かに広がる海。
空からの淡い光に照らされ、時折煌めく水面だけがその動きを伝えている。
『ねぇ、マーロウ本当にこの先なの?』
『あぁ。この辺りに小船が係留してあるらしい。お前も探すの手伝ってくれ。リーフェ』
どうやら、あの魔人族達から色々聞き出しているようだ。
だけど――
『海を越えるんなら、トリム兄貴に頼めば良いんじゃないの?』
トリムの兄貴が使う『ヴォイド』の術。
お魚取り放題になるあの術を使えば、海底を歩いていけるんじゃないの?
この辺りの海って、あんまり深くないみたいだし。
そう思って気軽に言っただけなんだけど――返ってきたのは舌打ちだった。
『――あいつに頼むのは最後の手段だ』
それだけ言い捨てて、一竜去っていく。
原色おじさんも「まったく」と言いながら、後を追っていった。
――口の悪さとか、いつも自信でいっぱいなところとか。
似てる所が多いし、何だかあだ名も付けてるし、なんだかんだ言って仲良くやってたのかと思ったけど――違うみたいだね。
『あの二竜、そんなに仲が悪いの?』
傍らのユニィに聞いてみる。
「えーと。少しだけ――」
『特にマーロウが嫌ってるみたいね。私から見たら、どっちも同じようなものなんだけど』
ユニィが言い淀んでいる間に、サギリが勝手に答えてきた。
『ふーん。話は合うと思うんだけどなぁ』
予想通りではあるけれど、改めて聞くとちょっともやもやする――でも。
――ここでそんなことを考えててもしょうがないか。
そう気持ちを切り替えて、マーロウに言われた通り小船を探すことにした。
ユニィとふたり、海沿いを歩く。歩く。
大勢いても仕方がないし、『面倒ね』と言いながら歩き回っていたサギリと、『任せた』と言って座り込んだステュクスおじさんはあの場に置いてきた。
歩く。時に岩陰を覗き込みながら歩く。
『それにしても、全然見つからないね――『サーチ』でも無理だったし』
「仕方ないよ。小船って言っても、どんな形の船か分からないんだもん」
ユニィとそんなことを話しながらも、なお歩く。
『そう言えばトリムの兄貴、ちゃんとこっちに向かって来れてるのかな?』
「うん。大丈夫だと思う。時々『サーチ』でこっちの位置を知らせてるから」
そう言いながら、ユニィが『サーチ』の術を使う。
僕はその光を目で追って――――って、あれ?
『ねぇユニィ。あそこに浮かんでるの――あれがマーロウが言ってた小船じゃない?』
「――うん。そうかも。でもあれって――」
ユニィが言い淀んだのも分かる。
だって、岩場につながれていたその小船。
どう頑張っても――
「三にんぐらいしか乗れないよね?」
――うん。
マーロウには悪いけど最後の手段が必要みたいだね。




