273.リーフェの元へ
『まず驚いたのはその冒頭だな』
俺の言葉に相棒が「ああ」と頷きながら、手帳に線を引く。
《かつて世界は球の如く丸く。世界は全て表であった。》
――世界の形は円環というのは誰でも知っている常識だ。そこに疑問を差し挟む余地はない。
通常であれば、一笑に付すような話だ。
事実、俺もかつてリーフェが同じような話をしてきた時、いつもの事だと判断し、訂正して返したことがある。
俺も。恐らく相棒も。
その前提で、なぜこの世界の裏側に彼ら魔人族が居るのか。それを引き出すつもりだった。
だが――冒頭の言葉で、それら思惑は全て吹き飛んだ。
その真偽はともかく、世界の成り立ちに係わる新しい知見。
世界の形をも変える、創世ならぬ再世の物語。
――魔人族の目的などよりも、遥かに面白そうな話だったからな。
『――で、前半で気になるのは「異端」ぐらいなものか? 普通この手の話だと神が出てきそうなんだがな』
こうしてまとめてみると、その内容はありがちな創世記のようにも見えるが、この話に神に類するものは登場しない。
「異端」の存在が唯一それらしいが、世界に穴を開けただけの存在が神? そんな訳はないだろう。
だが、こいつに関しては魔人族達もその真実を知らないようだ。
老人に聞いてみたが「異端」に関しては「異端」としか伝わっていないらしい。
この調子では、深く掘り返しても何も得られないだろう。
むしろ――
「私は残されていたという、淡く光る種の方が気になるな。それが今も空に浮かんでいるんだろう?」
『そうだな。中盤で気になるのは淡く光る種だな』
「異端」に関しては、何も残っていないので憶測するしか手はないが、この淡く光る種は違う。
もしやと思って聞いてみたが、予想した通り。
今も空の中央で輝いている光は、残されたその種が芽吹いたものだそうだ。
彼らの間では「芯理の央樹」と呼ばれているらしい。「知識」と「秩序」の象徴だそうだ。
『後半は盛りだくさんだが――結局のところ、二手に分かれた人々が世界の安寧を維持してるって言いたいんだろ? んで、世界を裏側から支えてるのが魔人族――ってな』
どうやら、この辺りの話が老人が伝えたかった話のようだ。
こちらが質問する前に、聞いていないことまで丁寧に教えてくれた。
老人の話では、彼等魔人族こそが世界を裏側から支えている一族――ということらしい。
対になる一族と共に、この世界を維持管理しているそうだ。
彼等魔人族は、100年~300年に一度、世界の表側にも遺跡の管理要員を送り出しているという話で、約100年前にも一人の同胞を表の世界へと送ったらしい。
しかし――老人の話を聞いていて気付いたんだが、もしかするとその100年前に送った管理要員ってのが、リーフェ達が黒の遺跡で倒したっていう魔人なんじゃねーのか?
――まぁ確証はねーし、この場じゃ言えないけどな。
「お世話になりました。ご協力感謝します」
「ありがとうございました」
相棒とユニィが見送りの魔人族達に深く礼をする。
『ねぇ。早く行きましょうよ』
「そうだね」
ユニィが背に乗ると同時。
サギリが勢いよく走り出す。
『おい。少しぐらい待ったらどうなんだ』
俺の抗議は、サギリの耳には届かず置き去りにされた。
――ったく。
「すまん。待たせたな」
『いや。あいつらが慌てているだけだ――まぁ仕方ないがな』
リーフェを探して海へ山へ世界の裏側へ。
随分長い旅だったが、ようやくあいつとも合流できそうだな。
次話から第8エピソードです。




