270.魔人族
体調不良につき短めです。
「ようやく見えてきたな」
相棒の呟きに『ああ』とだけ返す。
薄闇の中。遠目に見える石積みの塀が、その存在を主張している。
あれがリーフェが捕らえられたかとかいう魔人族の集落なのだろう。
「大丈夫かな。リーフェ」
『大丈夫でしょ。バカ竜は死なないって言うじゃない』
――サギリの意味不明な理論は置いておいて。
俺は、聖国の蔵書室で読んだ本。その内容を思い出しながら答えた。
『大丈夫だろ。魔人族だからと言って好戦的な種族とは限らないからな』
魔人族が忌避すべき存在とされるようになったのは、恐らく500年程前の「魔王」と呼ばれた魔人族の大魔。その出現による所が大きいだろう。
その討伐に当たった「勇者」や「聖女」と呼ばれた者たちの冒険譚の一節として、魔人族である「魔王」の暴虐が描かれており、その暴虐のイメージが魔人族自体を忌避すべき存在として認識させるに至ったのだ。
――まぁ、このふたりには理解できないようだがな。
まだ何か呟いているふたりを無視して、背中の相棒に話しかける。
『このまままっすぐ向かうのか?』
「ああ。余計なことはせず、普通に訪問した方が良いだろう」
『――そうだな。お前達も行くぞ』
そうとだけ告げて、俺は駆けだした。
――――――
「みちくちなく!」
「かだひふたざけまうすぬき!」
向けられた槍と、意味が分からなくとも強い口調の言葉。
黒いローブを纏った魔人族達による思った以上に強烈な歓迎に、思わず顔をしかめてしまう。
――あいつ。一体何したんだ?
「我々の言葉が分かるものを呼んでもらえないだろうか」
そんな中でも、相棒は冷静かつ穏やかに対応する。
身振り手振りを交えた言葉に徐々に落ち着きを取り戻したのか、槍を向けていた魔人族達も構えを解いた。
「また表の客じとは、何かおきたのか?」
――と。
集まってくる人々の中から、聞き取ることのできる言葉が掛けられた。
「これはお騒がせしてすみません。私達はこの者達の様な脚竜族を探しているのですが――心当たりはありませんでしょうか?」
相棒がその言葉の発生源――杖を突いた老人に問う。
「――あの者達。それなら先程逃げた。お前達仲間か?」
「いえ。捕らえるために探しているのです」
――リーフェの奴、やはり何かやらかしたようだな。




