27.迷える子猫に愛の手を
「薬草採取――ですか?」
ユニィが聞き返す。
今日はツノうさおばさんのお手伝いの日。いつものおつかいだと思っていたんだけど――
「そうそう。薬草採取だよ。こないだ傷薬を大量に使っただろう? それもあって、ちょっとばかり切らした薬草があるんでねぇ」
ツノうさおばさんがこちらを見る。当然ツノうさの目だ。
「次の定期補充は1月後だし、こういう時は街に出て補充するんだけど――ちょうど今の時期なら新鮮な薬草が手に入るからねぇ。少し距離はあるけど、あんた達なら問題ない距離さね」
「そう言われましても――」
ユニィがこちらを見る。――雨に打たれてずぶ濡れになった子猫の目だ。
『遠くに行くのは構わないよ? むしろ山の中を走れるなら、おつかいより楽しみかな』
「ほぅら。リーフェ君もこう言ってるじゃないかい」
ツノうさおばさんが僕の言葉を聞いてユニィに畳みかける。
「でも薬草採取なんて、村の近くの草原に生えているヨモ草ぐらいしか――」
ユニィの視線があちらこちらを向く。――ずぶ濡れになった後、迷子になったようだ。
「もちろん、無料とは言わないよ。薬草5本1束で銅貨1枚。状態が良ければ倍払おうじゃないか」
ツノうさおばさんがまたこちらを見る。目が光った気がする。――ツノうさって夜行性だったっけ?
「――銅貨1枚あればクッキーが1袋買えるんだけどねぇ」
『ユニィ。おばさんが困っているんだ。助けてあげようよ』
僕は迷えるユニィの背中をそっと押すことにした。
もちろん、顔の向きは左斜め上15度だ。
僕は心優しき脚竜族なのだ。――断じて報酬に釣られたのではない。断じて。
こうして。
僕達はツノうさおばさんを助ける為、薬草採取へと繰り出すこととなったのだった。
――あ。ちなみにだけど。
あの出来事の後、ツノうさおばさんにも僕の声が聞こえていることが分かったので、今では普通に会話している。
どうやらツノうさおばさんも契約者だったみたい。脚竜族がどこにも居ないけど。
――――――
ツノうさおばさんの村から北に行くこと山4つ。
目的の場所は高地にある、ネザレ湿原という場所。
夏は涼しく冬は極寒。秋から春にかけては雪に閉ざされてしまうため、夏の季節だけ薬草採取ができるとのことだ。
湿原は人里からかなり離れているから、徒歩なら片道1日以上掛けて山道を歩く必要がある。だから、普通ならそこでの薬草採取は大変な作業なのだそうだ。
その代わり滅多に魔物は出ないし、出ても鼠型の小型の魔物ぐらいらしい。
――僕達なら山越えも簡単だし、魔物が出ても小型の魔物ならすぐに逃げられる。うん。確かに僕達にぴったりのお手伝いだね。
ちなみに、お目当ての薬草はネザツレ草という薬草らしい。
僕もユニィもそんな薬草は見たことなかったけど、ツノうさおばさんからサンプルを1束借りてきている。
これで目的の薬草もすぐに見つけれるよね!
――ってユニィのほうを見たら、濡れ猫顔のままだった。いつも自信が決壊寸前のユニィにしては珍しいね。なんでだろ。
そんなこんなで、今はもう2つ目の山を越えているところ。
ユニィの調子も持ちなおしてきたんだけど――
『ねぇユニィ』
僕は背中のユニィに語り掛ける。
「……ぁ、……ち……ま……」
『ねぇユニィ!』
「……んた――ん? どうしたのリーフェ? 何かあった?」
ようやくユニィから返事が返る。
ユニィが真面目なのはわかるけど――わかるけどね。
『走ってる僕の上でずっと喋っていると危ないよ? 窪みや岩を跳び越えた時に舌噛むよ?』
――さっきから背中の上でスキル練習をしているみたい。ずっと呟く声が聞こえていた。
しかもその『キーワード』って――
この前のスキル検証の後、僕はマーロウに教えてもらっていた。冗談でダミーの『キーワード』候補を入れていたって。
だけど、僕はその事をユニィには言えなかった。いや、言わなかった。
――僕はあの出来事で、世の中には黙っておいた方が良いことがあると知ったんだ。
僕はこうして少し成長した。――少しだけ大人になった。
後日。ユニィにバレてめっちゃ怒られた。




