267.怒り
『おい。いい加減に機嫌直したらどうなんだ?』
――おじさんが何かを言っている。
反省の色など、欠片すらも見えない。
――いや。
いくら反省していたとしても、許す気なんか全くないけれど。
『おじさんの事、見損なったよ。そんな竜だとは思わなかった』
『――めんどくせぇ奴だな』
おじさんがイライラし始めているみたいけど、無視無視。
僕はおじさんに背を向け、扉に相対した。
何度調べても、こちらから開く方法は見当たらない。
やはり、扉を開くためにはむこう側から開く――つまり、外から扉を開けてもらう必要があるだろう。
とはいうものの。
当然、外から扉を開けてもらうことは容易ではない。
これまでも何度か扉を叩いてみたけれど――無視をしているのか、聞こえても黙っているのか。
一切――反応がない。
――だけど。
僕は扉の下部に唯一開く、横長の穴を見つめた。
おじさんが仮眠中の僕を起こさなかったせいで、失われてしまった好機。
僕の腹時計が間違っていなければ、そろそろだ。
『サーチ』の術を使う。
対象は『魔性』の因子。つまりは魔物。
僅かに走る冷たい感覚と同時、周囲に広がる紫色の光。
そして――
――やっぱりだね。
光の中の一つが。
ゆっくりとこちらに近づいてくるのが分かる。
――そう。
待ちに待った昼食の時間が訪れたのだ。
『サーチ』の術がなくとも、扉の外側に感じる気配。
僅かな動きの後に、お皿によそわれたお粥状の穀類が二皿。
扉下部の穴から差し込まれて――次の瞬間、僕は。それを二皿とも平らげた。
『おい。てめぇ何やってんだ?』
おじさんが詰め寄ってくる。
だけど、僕にも言わなければいけない言葉がある。
『朝食の時、ちゃんと起こしてくれなかった罰だよ!』
『――――ぁあ?』
おじさんがどすの利いた声を上げたけど、僕も引くことはできない。
『何か文句あるの?』
『朝飯食えなかったのは、てめぇの自己責任だろうが』
おじさんの言葉。
その語尾は震えていて、怒りがしっかりと滲み出ている。
――そろそろかな?
扉の外側から走り去る気配を感じ、僕は一息ついた。
『ねぇおじさん――もう良いよ。多分、誰かを呼びに行ったから』
『あ? んなことはどうでも良いんだよ。てめぇ、さっきのはどういう了見だって聞いてんだよ』
――――あれ?




