266.バイアス
――魔人族に。
それも一人や二人じゃきかない魔人族の集団に捕らえられるなんて。
やっぱり――今思い返すと迂闊だったかもしれない。
昨日の回想を終えた僕は、そのまま思考に沈む。
あの時おじさんの言葉に釣られてこの集落に来たこと。
集落に入る前に『サーチ』の術を解除してしまったこと。
あのタイミングで『サーチ』の術を使ってしまったこと。
この集落に来なければ。
『サーチ』の術を解除しなければ。
あのタイミングで『サーチ』の術を使わなければ。
今のこの状態にはならなかっただろう。
そう。彼等こそが魔性の因子を持つ人族、魔人族だと分かっていれば――
――――?
分かっていれば?
僕は、ようやくここで違和感に――自らの偏見に気付いた。
そもそもの話として。
彼等が魔性の因子を持っていたとして。その事に僕達が気付かなかったとして。
一体――彼等が僕達に何をしたというのだろう。
僕達がどこから来たかを理解した上で、僕達の言葉で意思疎通を図り。
声を聞き取れないことに対しても、文字による会話を試みて。
もしこちらが暴れ出さなければ――良好な関係を築けていたのでは?
そう。
自らの偏見に気付いてしまえば――
おとぎ話で語られる、世界を支配しようとし魔王と呼ばれた魔人族。
実際に大魔と化し、黒の遺跡で僕達討伐隊と戦った魔人族。
人を竜を襲う、魔性の因子持つ魔物達。その一種族としての魔人族。
それらのイメージに引き摺られて、正常な判断ができていなかったけど。
――魔人族って、危険な種族なの?
『どうした? 呆けた顔をして。朝飯を食べ損ねたのに気付いたのか?』
その声に、意識を思考の深みから現実に戻す。
『違うよ。そんなんじゃ――』
ちょっと待って――今。な・ん・て言った?
声帯を鳴らしていた空気の流れが――呼吸と共に止まる。
気が付くと僕は、おじさんの顔とドア下端に開いた穴。
その2点を繰り返し繰り返し――繰り返し。
交互に見つめていた。




