表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第六章 謎解き騎竜
277/308

265.伝わらない心

 蠢く紫光が――活発な魔物の動きを示している。

 その蠢きを確認した僕は、気取られる可能性を少しでも減らすため、『サーチ』の術を解除した。


 遠目に見えていた集落も、既に目と鼻の先。

 石積みの塀とその切れ目――門と思しき場所も、もう視界の中だ。


『――おじさん』

『ああ』


 交わす言葉も短く。

 駆ける勢いのまま門を潜り抜け、集落へと踏み込む。


 まだ見ぬお宝(食材)を掛けた、魔物との死闘。

 襲い来る魔を払い、滅びた集落に残されたお宝を奪取する。


 あるいは。


 今まさに魔物達に襲われている集落にて。

 颯爽と登場し、猛り暴れる魔物達から人々を守り――その(のち)歓待を受ける。


 そんなものを想像していた僕達の。

 その目の前に現れたのは――


「もぜるすうくまな。かうてにぬ」

「あう! でぃろきめりあしやどかう!」

「いろみい。だかしくちぃ?」


 何だか、訳の分からない言葉で話し掛けてくる人族達だった。




『一体何なんだこいつらは!』

『そんなの僕が聞きたいよ!』


 初めは三人しかいなかった人族達も、僕達が戸惑っている間にどんどんと増えていき――僕達は既に老若男女、数えきれない人達に囲まれていた。

 僕達を囲う全ての人達は皆が皆、黒っぽい色でだぶだぶのローブの様なものを纏っている。

 その上――


「にぬきにうちざ」

「ううに。かなじりじり」

「ぎゅろぎゅろきゅるきゅるにぬうとれかうてり?」

「ひずもむち。くけるざけずの?」

「はた! はどむち!」


 ――何を言っているか分からないのが気持ち悪い。

 特に。何だか分かりそうで分からない、そんなところが余計に。


 ただ。

 僕達脚竜族の言葉が聞き取れていないことは、間違いないと思う。

 途中、何か「きゅるきゅる」とか言ってたし。


 そんなことを考えていると、突然。

 囲んでいた人達が静かになり、囲いの一部が左右に開いた。


 ――もしかして、逃げ出すチャンス?


 そう思ってその空間の方を向くと、そこには一人の老人が居た。

 周囲の人と同じローブを身に纏い、杖を突いた老人は――見た目からは驚くほど張りのある声で、僕達に語り掛けてきた。


「ようこそ表の客じ。私の言葉分かるか? 脚竜族思う。みな声聞こえない。ごめなさい」


 片言だけど、ようやくの意味の分かる言葉に安堵する。

 どうやら、僕の予想通り脚竜族の声は聞き取れないようだ。

 それなら――返答の代わりに首を縦に振る。


「うれし」


 そう言いながら、杖を差し出してくる。

 どうやら、仕草は正しく伝わるようだけど――これは?


 僕が首を横に傾けると、老人が続けた。


「文字読める」


 そう言いながら、地面に《いろは》と文字を書く。

 ――どうやら、この杖で地面に書いて欲しいということらしい。


『俺がやろう』


 ステュクスのおじさんが老人の手から杖を受け取り、地面に文字を書き始めた。


《ここはどこだ? おまえたちはなにものだ?》


「こ、こ、は……」


 その文字を、おじいさんが一字ずつゆっくりと読んでいく。

 一字一字確かめるように。時々難しい文字があるのか詰まりながら。


 ――うーん。もしかして時間掛かるかな――って、そう言えば。

 僕は思い出す。

 この集落に入る前。『サーチ』の術に示された大量の魔物の反応を。


 あの反応は一体今どこに?

 もし、この人達が気付いていないのなら早く伝えないと――

 そう気付いて、慌てて『サーチ』の術を起動して。


 ――――。


 僕はその結果に絶句する。

 そして――


『まさか、お前ら皆魔物か?』


 周りの人達に吸い込まれる紫の光。

 その光景に呆然とする僕を尻目に、おじさんが素早く身構える。


『――『暗幕』!』


 その言葉に、僕も慌てて身を守るように体を丸めた。

 『暗幕』はおじさんの得意な術だけど、僕まで視界が奪われる。

 その間は無防備になるので、こうやって身を守る必要があるのだ。


「えぃ!」

「にぬせろ!」

『むぅ!』

「さうててきみおら!」


 僕が体を丸めている間も、周囲からはドタバタと暴れる音の他、意味不明な言葉が聞こえてくる。

 だけど――何が起こっているのか。

 僕には確認する術はない。

 ただ、この黒い靄が晴れるまで体を丸めて、身を守るだけだ。



 そうして――靄が薄くなり、視界が徐々に晴れてきて。



 僕は気付いた。

 僕の周りを囲う槍の穂先と、取り押さえられたおじさんに。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ