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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第六章 謎解き騎竜
275/308

263.未だ知らぬ世界

 視る。

 光を拒むその黒い穴を、さらに穿つように深く――視る。


 表層的には、水の底に黒い穴が開いているだけにしか見えないが――やはり。

 その本質はリーフェの術と同じものだ。

 ――即ち。

 光を通さず、また一切反射することが無い。そんな空間上の不連続面。

 目の前に在るのはそういう代物だ。


『いつまでも眺めてても仕方ないでしょ? 早く行きましょうよ』


 外野がうるさいが、そんな言葉に耳を貸している暇は無い。

 俺は相棒に一つ頷くと、続けてその黒い穴より湧き出す水に視線を移す。


 先程も見た通り、その水が濃厚な『力』を含んだ水であることは間違いないが――ここで注視すべきは、その湧き出る速度だ。

 湧き出る速度が分かれば、黒い穴を潜った先の水深も予測できる。

 無論。水を穴の高さまで抜き去ることができれば、その噴出する高さで予測できるのだが――湧きだす水自体が邪魔をするので仕方がない。


 深く息を吸い、意識を湧き出す水に集中する。

 水の一滴一滴。その動きを追うイメージで、水の流れを視る。

 黒い穴から現れ、そして上昇し――


『――面倒ね』


 細分化された視界の中で、何か()()()()()が流れを逆流した。


『――は?』


 何が起こったか。

 一瞬理解できず、思わず間抜けな声を出してしまったが――


「サギリっ!?」


 ユニィの声で、即座に状況を理解した。

 ――あいつ。一体何やってんだ?


「あの。おふたりともすみません。でも。早く後を追わないと――」


 ユニィが口早に謝罪の言葉を口にする。

 人族の感情の機微に疎い俺にも分かるほどに慌てているようだ。

 だが――サギリが短気なのは昔からだ。ユニィから謝罪を受ける理由はない。

 それに――だな。俺は口を開く。


『向こうの水深は1mもねぇんだから大丈夫だろ』

「そうですよ。落ち着いて下さいユニィさん。サギリさんが()()()飛び込むことができたんです。少なくとも、体高から水深を差し引いただけの空間が、あちら側にあるのは間違いないでしょう」


 俺の言葉を相棒が補足する。

 それを聞いたユニィも、多少落ち着いたように見えた。


「ですが――急いだ方が良いのは確かですね。マルクさん!」


 相棒の呼び掛けに、辺りを警戒していた冒険者の青年がこちらに顔を向けた。

 少し離れた位置だが、そのままの距離で相棒が叫ぶ。


「私達はこのまま、この()の向こうに向かいます! 貴方達はこのまま下山して下さい!」


 相棒の言葉に、青年が頷きを返した。

 本来ならば、俺達が下山するまで同行する必要があるんだろうが――俺達が()()()に行ってしまえば、いつ戻れるかもわからない。

 この事については、既に合意済みだ。


『じゃ。俺が先に行くからな』


 そうと決まれば――俺ももう待ちきれない。


「あ。待って――」


 何かを言い掛けたユニィを置いて、俺も黒い穴に飛び込んだ。


 ――――瞬間。

 体の感覚がおかしくなる。

 脳が異常を訴える。

 その間も足先は水面を抜けまた水面に落ち、頭は水面を抜けることなく水の中で――息苦しさが増す。


『何やってんのよ』


 時間にして数秒だろう。その言葉に――ようやく俺は、自分の体勢を理解した。


『そうか――上下が逆なんだな』


 その原因に気付いてしまえば、嘘のように感覚が正常に戻る。

 体勢を立て直し、周りを見回す余裕も出てくる。


 今居る場所は――広い湖の様な場所だ。

 薄明りの中、遠くに岸部が見える他は、何も見当たらない。

 今居る場所の水深は、予測の通り80cm程度と歩ける深さだが――どこまでその深さかは分からない。

 慎重に進む必要があるだろう。


 すぐそばに立つ、呆れ顔のサギリを視界に入れないように――そのまま空を見上げる。


 見上げた空には。

 中天に輝く光とその向こう側。星空を二分する灰白色の帯が輝き。

 帯の両端は、空の果てでせり上がった大地と繋がっている。



 ――これが、お前の見た景色なんだな。リーフェ。


 思わず笑みが込み上げた。



本エピソードはここまで。

次話から第7エピソードです。

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