262.黒い穴
「もう無理。ほんと無理。こんな話聞いてねぇっての」
「僕は薄々気付いてたよ――もう無理なのは同感だけど」
「二人とも、口は動かさずに手を動かしてくださいね」
少年二人が沼の底に溜まった魚を運び出し、青年が土術で穴を掘り埋めている。
勿体ないような気もするが――いや。
リーフェの奴が居たら確実に騒いでいただろうが、これだけ大量の魚を何の準備もなく町まで運び出すなど不可能。
致し方のない事なのだろう。
沼の底の状況を確認する。
既に処理を始めてから2時間――8割方は片付いたというところだろうか。
彼らが処理を始めた時、ユニィも手伝おうとしたんだが――「私達のやるべき仕事ですから」と青年にやんわりと断られていた。
その後は冒険者の3人だけで処理を進めていたんだが、想像よりも速いペースで処理が進んでいる。
あと1時間も経たずに沼の底の調査を開始できるだろう。
そして――手伝いを断られたユニィは、それでもじっとしてはいられなかったようだ。
その後、沼の底から徐々に湧きだし続ける水に気付いたようで、今はその水をこまめにポケットで吸い込んでは隣の沼に捨てている。
『――調査開始までは、俺達もできることをやっとかねーとな』
『そうね。それじゃ私はもう一周回ってくるわね』
いつの間にそこに居たのか。
俺の呟きに、サギリが言葉を返してきた。
――そういう意味じゃねーよ。
喉まで出かけた言葉を堪えて、そのまま後姿を見送る。
今は、静かになってもらった方が有益だからな。
「それじゃあ、続きを始めるぞ」
『ああ。そうだな』
背後からの相棒の声に、振り向く。
ちらと見えた相棒の瞳は、既に青く染まっていて――
――『インスペクト』。
俺も術を再起動する。
先程まで視ていたのは、沼の底に残っていた水。
その結果は、案の定というべきか予想通りというべきか――濃厚な『力』を含んだ水というものだった。
この結果は、海底遺跡で噴出する水を視た時と同じものだ。
さらに言えば――それは以前、リーフェから送られてきた手紙に付着していた砂粒。
それを見た時と同じ感覚だった。
――であれば、当然。
俺達は、その対象を視る。
一片の情報も見逃さない様に――視る。
そして得られた結論は――
『やっぱ、この魚も海底で見たやつと同じ魔魚だな。姿形だけでなく、外皮から吸収した『力』のみで活動して、体内に大量の『力』を循環させているところまで同じだからな』
「ああ。私も同意見だ」
――俺達の推論を補強するものだった。
「魚の処理が終わりましたよ」
青年の声に、会話を止める。
――どうやら、相棒との会話に夢中になってしまっていたらしい。
その声に促され、先程まで魚が残っていた場所を見ると――新たに湧き出たと思われる水と数匹の魚が跳ねている他は、きれいに片付いていた。
そして、その中心。
否が応でも目立つのは――緩く水の湧きだす、直径1m程の大きな黒い穴であった。
話の進行遅いですが、まもなく本エピソードも完了します。




