261.全部抜く
青年達に案内された沼は。
周囲のそれと視比べると、明らかに異質と分かるものであった。
まずその形だが、直径50m程の大きさのほぼ真円に近い形をしている。
星が降った跡など自然にできなくもない形だが――この場合、人為的なものを疑った方が素直だろう。
一方の水深については、周囲の沼地とさほど変わりは無い。
水際から覗ける範囲では底も見えており、深い場所でも1mにも満たないのではと思われる。
――だが。
その水質は、沼という言葉から想像していたような泥の浮遊、堆積したものではなく、意外にも澄んだ水を湛えた場所だった。
そして、その事実が示すのは――
「――当たりだな」
『ああ』
俺と同じく瞳を青に染めた相棒の言葉に、一言だけ返す。
泥の堆積が無いということ――それはつまり、堆積する物が存在しないか、堆積することなく流れされているということを意味している。
そして――当然だが、この湿原には堆積し得る物は数多く存在する。
枯れた草木、魚等の生物の死骸――およそ生物が存在する限り、それらが無くなることはない。
――であれば、自明。
それらは全て流されているのだ。
湧き出る水に。魔魚と呼ばれる魚を運ぶ湧水に。
『ねぇ、マーロウ。本当に今度こそ大丈夫なんでしょうね?』
サギリが疑いの目を向けてくるが、そんなことを俺に言われても困る。
可能性は語れても、それは絶対ではない。
――何より。
俺達はそれを確認するために、この場所に来たんだからな。
『まぁ黙って見てろよ』
それだけ返して、ユニィの姿を探す。
この沼みたいに限られた場所の水抜きなら、リーフェの術が有用だ。
そんなことを考えながら周囲を見渡して――妙なものを見つけた。
いや――あの光は。
『お前、それまだやってたのか』
その紫色の光を辿ると、案の定ユニィが居た。
カリ何とかという港町でトリサンに頼まれていた、この場所を知らせる為の『サーチ』の術だ。
だが――
『あいつが合流するとか、もう無理だろ』
「そうかもしれませんけど――約束なので」
――真面目なことは知っていたが、ここまでとは思わなかった。
普通に考えれば。
このネザレ湿原は、夏でも歩いて3日は掛かるほどの深い山の中。
陸を歩くことが困難なトリサンが俺達に追い付けるはずがない。
無論、海からこの場所までは川で繋がっている。
繋がってはいるが、当然深い山中における川の流れは速く、簡単に遡上できるはずもないのだ。
俺は気持ち大きめに首を横に振った。
『そんな事より、『ポケット』の術を頼む。沼の水を全て抜きたいんだ』
「――『ポケット』!」
『キーワード』を口にしたユニィの瞳が、黒紫に染まる。
そして10秒と経たず――沼の中央に渦巻く窪みが現れた。
目に見えて下がる水位と、露わになる沼の底。
――やがて。
沼の中央、俺達の前に姿を見せたのは――
僅かに残った水に群がる、大量の魚達だった。
――――まぁ、そうなるよな。




