260.冬の湿原
視界が開ける。
広がるのは一面の白。ただ白く広がる雪原。
――いや。
白の中で時折光り、その存在を主張するのは水面だろうか。
『ようやく――ね』
涼しい顔をしたサギリが隣に立ち、何事もなかったかのように呟いた。
その瞳から、黄色の気配は既に消えている。
「っしゃ! やっと着いたぜ!!」
「ごめん、もう無理――」
聞こえた声に振り向くと――シュ何とかの町で同行することになった冒険者達。
その内の少年二人が雪上に座り込んでいた。
実のところ。
町からの出発を前にした俺達には、ある一つの問題が浮上していた。
それは――町からネザレ湿原まで掛かる日数だ。
冒険者達の話によると、冬だと徒歩で5日は掛かるという。
俺達なら、悪路だろうと雪道だろうと半日も掛からない距離なんだが――人族であればそんなものなのだろう。普通は冬の間は立ち入らない場所らしいからな。
そう納得しかけた俺達だったが――ただ一竜納得していない者がいた。
それが――サギリだ。
5日を少しでも短くするために――『加速』の術をこれでもかと冒険者の三人に使ったのだ。
そう、これでもかと言わんばかりに。
結果。
この場に辿り着いたのは、街を出て3日目の夕刻。
大幅に日程を短縮することに成功していた。
――まぁ、この二人はしばらく動けそうにないがな。
「探しているのは、魔魚が最も多い場所――でしたね」
「ああ、その通りだ」
「お願いします」
一方。
このマルクとかいう青年は一人、平然とした顔で相棒達と打ち合わせを行っている。
全てにおいて、駆け出しの二人とは鍛え方が違うのだろう。
道中話した事情を元に、既に向かう先の候補も決まっていたようだ。
「バーツ。アール。いつまでそうしているんですか?」
続くその言葉に。
しばらくは立ち上がることなどできないと思われた、二人の少年が立ち上がった。
「それでは、案内いたします」
青年が先導し、少年二人が周囲を警戒しながら後に続く。
道中でもそうだったが、どんなに疲れていても青年の言葉には従うようだ。
――ただ。
アールと呼ばれた黒髪の少年は、しばらくの間ぶつぶつと文句を言っていたが。
他の二人が何も言わないところを見ると、いつもの事なのだろう。
「何だか――不思議な感じ」
『あら。どうかしたのかしら?』
「――ううん。大したことじゃないの」
ユニィの呟きをサギリが拾う。そんな他愛もない会話だ。
走っている時なら聞こえないその会話も。
今は人族の歩く速度に合わせているため、こちらにまでその内容が聞こえてくる。
まぁ、取り立てて気にするような話でもなさそうだが――
「ただ――ね。リーフェと一緒に来て、確かに見覚えのある景色なんだけど――」
『だけど?』
「うん。何だか違和感があるの。何かが違うような――何か忘れているような――」
『そう――もしかしてだけど、季節の違いじゃないかしら? 確か、リーフェが魚を大量に持って帰ったあの日って夏だったわよね。だから――見える景色もその色合いも、違って見えるのかもしれないわ』
「そうかも――うん。そうだよね」
――多少迷いは晴れたようだな。
そのまま5分程進み。
一つの沼地の前で、青年達が立ち止まる。
「この沼です。何度駆除しても、すぐに魔魚が増えてしまうのは」




