259.入山許可
「やっぱり時代はこれだよなこれ。お前もそう思うだろ?」
――朝早くフォリアの町を出発し、俺達は今。
ネザレ湿原に最も近い町。シュ何とかの町の冒険者ギルドに居た。
そして――先程から何故か。
黒髪の少年が俺の背中を撫でながら、何事かを呟いている。
――やけになれなれしいんだが、こいつ本当に誰だ?
俺には心当たりがない事からすると、どうせまたリーフェの知り合いだとは思うんだが――今朝の奴らといいこいつといい、あいつの知り合いはこんなのばかりなんだろうか。
尻尾で振り払う程ではないんだが、やたらと鬱陶しい。
――頭に少し痛みを感じ、逃げるように相棒へと視線を移す。
「――調査の為、立ち入りを――」
「理由は理解――管理区域の為――」
「であれば、こちらで――」
どうやら、ギルドの受付――いや、多少偉い奴に代わったか?
とにかくそいつと交渉を続けている。
かれこれ15分ほどだろうか。サギリの奴は待ちきれずどこかに行ってしまったが――俺も行けばよかったな。
『――にしても入山許可とか。面倒くせー話だな』
「仕方ないんですよ。マーロウさん」
思わずこぼした呟きが聞こえたのか。
同じく相棒の方を見ていたユニィが、こちらを振り向き答える。
――と同時に目を丸くした。
「――って、何してるんですか? えーと――」
「アールだよ、騎竜っ子ちゃん。久しぶりだな」
「ユニィです――じゃなくて。それよりその竜、リーフェじゃないので止めてもらえますか?」
「――そうなのか?」
ようやく背中の手が止まる。
少し気になる言い方だが――鬱陶しい動きが無くなったので、まぁ良いだろう。
「話は通してきたぞ」
そんな話をしている間に、相棒も戻って来た。
後ろに見知らぬ黒髪の青年と金髪の少年を連れているが――あれだけ長々とやっていたのだ。
恐らく、お目付け役という奴が付いたんだろう。
そう思っていると、後ろの二人が頭を下げた。
「皆様、私はマルクと申します。今回の調査に同行させて頂くこととなりました。事情は既に伺っています」
「バーツです。よろしくお願いします。――ほらっ。アールも行くよー」
――しかも。
どうやら、このなれなれしい少年も同行するらしい。
「お。そうなのか? そりゃちょうどいいな――なぁ、バーツ。あの時の騎竜っ子ちゃんだぜ!」
「あっ、ほんとだ。えーと――確かユニィさんだったよね。お久しぶりです」
「――お前。いつもと何か違くね?」
何だか賑やかな奴らだな――と考えたところで首を振る。
いや――リーフェが居れば、俺達もこんなものか。
騒ぐ少年達を眺める。
しばらく眺めて――そろそろサギリを呼び戻そうかと考えていると。
相棒と青年の話す声が聞こえてきた。
「――なるほど。それで入山規制が厳しくなったというわけですか」
「はい。ようやく薬草が増加に転じたというのに――嘆かわしい話ですよ」
「つまり――護衛も兼ねていると」
「――そういうことです」
真剣な目で言葉を交わす二人。
――どうやら。
ユニィの言っていた「仕方ない」という言葉。
その言葉は真実の様だ。




