258.見送るひとびと
閑話的な何か――ではないかも。
――ん? 何だ?
『――!』『――!!』
辺りに響く、何かの声に目が覚める。
正確な時刻は分からないが、まだ薄暗い空に夜明け前の時間帯だと認識する。
そのまま。
俺はまだ焦点のうまく定まらない目で周りを見回したが――昨夜泊まった時のまま、特に異常は見られない。
施設は少々古いが、清掃は行き届いた運送ギルド併設の竜舎。
周囲の光景は昨夜見た光景、その記憶と一致している。
――と。
考えている間に、辺りは静寂を取り戻していた。
――今のは一体、何だったんだ?
若干の興味が湧いたが――疲れた体が立ち上がることを拒絶する。
――しょうがねーな。何かあったんなら、朝になれば分かるだろ。
俺は再び目を閉じた。
――――――
――――痛ぇっ!
背中に響く、何かの痛みに跳ね起きる。
瞬時に脳もその活動を再開し、夜明け前の記憶が蘇る。
――くそっ。やっぱ何かあったの――
『いつまで寝てんのよ』
目の前の姿を認識し、全身の力が抜けた。
『おい。もっと起こし方っていうもんがあるだろ? それに――まだ夜が明けたばかりじゃねぇか』
『そっちこそ何言ってんのよ。こんなの普通でしょう? だいたい、みんなもう起きてるわよ』
言われて耳を澄ませてみると、なるほど。竜舎の中は既に騒がしい。
どうやら、サギリの主張も間違いではないようだ――一部を除いては。
『――みたいだな、悪ぃ。つーか、もしかして――あいつの事もこんな感じで起こしてたのか?』
『そんな訳ないでしょ!』
強烈な否定に驚きながらも安堵する。
流石のサギリもそこまでは――
『寝てばっかりのバカ竜には、もっと強めにいくに決まってるじゃない』
『――――。そういや、夜明け前に何か特別な事でもあったのか?』
――こいつの対応はお前じゃないと無理だ。
だから――生きて帰ってこい。親友。
サギリの『特別なことは何も無かった』という返答を聞きながら、俺は。
内心――そんなことを考えていた。
――――――
「また来てね。ユニィちゃん」
「また顔を見せに来るんじゃぞ」
「そうそう。たまにはね。こっち方向の依頼、あるでしょ?」
『今度はリーフェ君と一緒に居らっしゃいね』
『――美しさというのはね。磨き上げなければならないのよ』
出発を控えた街門の前、昨日サギリが俺達を待っていたその場所で。
少なくない人竜達に、ユニィとサギリが囲まれている。
まぁ、少し前まで住んでいたところだ。当然、知り合いも多いのだろう。
だが――
『次に来るときは教えてくださいね』
『リーフェ――いや「死星」によろしくな』
やけになれなれしいんだが、こいつ等――誰だ?
順当に考えればリーフェの知り合いのはずなんだが、俺の事を知っている?
そう考えると、どこかで会った気もするんだが――さほど興味が湧かなかったんだろう。
良く思い出せないな。




