26.知識を追う者
『じゃーな。まぁ、俺の方でも他に使えそうなネタがないか、調べとくわ』
『じゃあまたね。リーフェ』
二竜が去っていく。
今日のスキル検証の結果は、まずまずというところかな? 『ポケット』の使い道を思い付いたし、使えない『キーワード』もリスト化できたからね。
僕は手元のリストを見る。そこには全て✕が打ってある。可能性を潰しこむことも重要な成果だもんね。
それにしても、マーロウもサギリも『時空魔術』じゃないかと言ってたけど――今日、過去の『時空魔術』に関する記録を調べた限りでは、僕のスキルとはちょっと違う気がする。どこが? と問われても困るけれど。
――あ。そういえば。
ユニィは『タイマー』がどうとか気にしてたけど、多分気のせいだからね。それ。
とにかく、今日の予定はこれでおしまい! 折角ユニィがこの村に来たんだし、もう少し遊ばなきゃね!
――――――
――『時空魔術』じゃねーな。
俺は独りで今日のスキル検証を回想する。リーフェとその契約者――ユニィだったか――に思い付く限りの『キーワード』候補を試してもらったんだが――結果は見ての通り。全滅だ。
確かに、因子の強度――つまりはスキルのレベルの違いによって技や術が発動しないこともある。例えば、サンダーラプトルの『サンダーボルト』をその辺のイエローラプトルが使えないとかだな。
しかし、その場合でも何らかの反応はある。例えば、本人であれば体の中の力の動きを感じるし、外から見ても目が微かに輝いたりするといった具合だ。だが、見た限りそんな感じは一切なかった。俺は途中から読書に興じてたんで、本人達の自己申告だがな。
――まぁ、契約者の方は何か言っていたようだが、俺がお遊びでリストに入れたダミーを気にしていたぐらいだからな。無視して良いだろう。
それに加えてだ。『キーワード』候補の中には、かなり確度が高いものも含まれていた。それらが全て無反応となると――やはり、リーフェのスキルは『時空魔術』じゃない可能性の方が高い――ということになる。
だとすると――俺はもうひとつの可能性に思い当たる。
――昼間読んでいた本の一冊。時空魔術師の英雄譚と比べると、荒唐無稽な逸話ではあるが――いや、まさかな。
俺は、一冊の本を手に取りページをめくる。
時空魔術師の英雄譚よりさらに古い記録。1200年ほど前の記録にその人物の逸話が記されている。
『ホラ吹き奇術師』
――何もない空間から物を取り出す『奇術』を用いる稀代の奇術師。
『――というか、これ『嘘つきピエロ』だよな?』
子供の頃聞かされた有名な童話の一つ。
嘘つきのピエロが最後には処刑されてしまうという、まぁ良くある教訓話だ。だが、実在のモデルがいるとは思わなかった。
童話の内容を思い出しながら、その記録を読み進める。
記録に遺されている逸話。
それは、「魔界を旅してきた」とか「一夜にして砂漠に都市を作り出した」とか、そういうホラ話をいつも吹聴していたという話ばかりだった。
だが、記録を読む限り少なくともその奇術だけは本物だったようだ。
『――見つけたぞ。「共通点」を』
何もない所に物を出し入れできる大道芸のようなスキル。
そして、時々発せられる意味の分からない前世の記憶と言葉。
――思わず口角が上がる。
歴代の長老達の『積層知識』にも無い知識。
上等じゃねーか。俺が調べてやるよ。
リーフェ視点に戻るはずが、気付いたらマーロウ回になってました。
第3エピソードの本編は次回からです。




