255.光示す先
空気が――重たい。
理由は明白。
海底遺跡の調査が空振りに終わったから。
だからサギリはいつも以上に落ち着きなく甲板上をウロウロしているし、マーロウさんもずっと無言のまま。
ノルディスさんは――あんまり変わらないのかな? それ程親しくないから分からないけど、雰囲気は変わっていないと思う。
溜息をひとつ吐き、私は『サーチ』の術を使う。
視界の中。薄っすらと浮かび上がった紫色に光る線は、黒の遺跡や聖国で見た時よりもずっと――足元の近くへとその向きを変えている。
初め聞いた時は半信半疑だった、「世界の裏側」だというリーフェの行き先だけど。
実際に西へと旅して、こうして足元に伸びる光を見ていると――その事実を信じざるを得ない。その遠さを認めざるを得ない。
手紙のやり取りは続けているけれど――相変わらず言葉数が少ない上に、最近はおさかな天国という言葉が並ぶばかり。
いつも通りで安心する反面。本当は何をしているのか、心配にもなる。
「今。何してるのかな――リーフェ」
――――――
『ねぇおじさん。本当に行くの? やっぱ止めとこうよ』
前を行く背中に声を掛ける。
『当たり前だ。ここは一体何なのか。情報を手に入れる必要があるだろ?』
『そんなのマーロウに任せて、僕達は取り放題食べ放題のおさかな天国を満喫しようよ! それに――ほら。ものすごい数の魔物が居るんだよ? 多分、もう魔物に乗っ取られてるんだよ』
先程から、魔物を示す『サーチ』の光が多数。
僕達がこれから進む先へと伸びている。
それも10体や20体というレベルではない。100体以上は確実に居るだろう。
そんなところに向かうなんて、到底――正気の沙汰とは思えない。
多分だけど、頭のねじが2、3本吹っ飛んでいるんだと思う。
『多少魔物が居ても蹴散らせば済むことだ。そんな事より――新たな食材があるかもしれないだろ? そっちは良いのか?』
――――。
いやいやいや。
全くこのおじさんは何を言っているんだろう。
そんなことを言ってる場合じゃないということが分からないんだろうか?
『まったく――おじさん、一体いつまでそんな事言ってるの? そんなこと言ってる暇があったら、さっさと行くよ』
それだけ告げて、僕は一歩を踏み出した。
光の指し示す先。
未だ遠く見える、その集落へと。
次話から第6エピソードです。




