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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第六章 謎解き騎竜
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253.手詰まり

少しずつペースを元に戻せそうです。

『何だよ。んなことで怒るなっての。ほら。お前等にもこの旨ぇ魚やるからよ』


 トリサンの言葉に、視線だけで返す。


『あー分かった分かったっつの。面倒くせぇ奴だな。あの水の噴き出してる所に術を使やぁ良いんだろ?』


 俺は無言のまま頷いた。

 いくら腹が減ったからといって、こんな場では少し位自重しろよ。

 そんな言葉を飲み込んで。

 ああ。こいつの行動、その一つ一つが気に食わない。

 その行動が少しだけ親友(リーフェ)と被ることも。


 だが――今は。

 揺れるかがり火の灯りの中、むき出しになった石畳の上をよたよたと進む背中を見送る。

 やがてその背中は、噴き上げる水柱の前に辿り着き――水柱が消えた。


 恐らく、術を起動したんだろう。

 ここまでは予想通り。

 だが――問題はここからだ。果たして、この状態を維持できるのか。

 固唾をのんで見守る俺達の視線の先。

 数秒にも満たない静寂の(のち)――


(わり)ぃ。これ駄目な奴だわ』


 その言葉と同時。

 水は高く。球面の天井まで届くほどに噴き上げた。




『こいつは無理だな。途中までは良かったんだけどよ。引っ掛かんだよ。途中で』


 思わしくない結果とは言え、何らかの参考になるかもしれない。

 そう思い、先程術を使った時の感触を聞いてみたが――引っ掛かるという言葉に、妙に納得がいく。

 恐らく――空間を繋ぐ門の(ふち)に引っ掛かったのだ。

 かつてリーフェの『ポケット』の術を検証した際にも現われた現象。

 空間の境目が、決して動くことの無い物質かのように振舞う現象だ。

 やはり、術であってもその境界を抜けて通過することはできないらしい。


 ――いや。

 仮に一時的に吹き出る水を抑え込めたとしても、術を解いた瞬間に水が噴き出してしまうこの状況では――門を潜るのは不可能と言わざるを得ない。

 それに門を潜ったところで、向こう側からあの水の勢いで押し戻されるだろう。



 ――正直。手詰まりだった。



 何とかならないかと、ユニィの『ポケット』でも水を吸い込んでみたが――門を流れる水の勢いはそのままに『ポケット』に水が吸い込まれるだけだった。

 トリサンが噴き上げる水を抑えている間に門を()てみたが、空間の(ゆがみ)の存在が分かっただけだった。

 しばらく足掻いてみたが、少なくともここに居る俺達ではどうすることもできそうにない。



 ――聖国を出て、西へ西へと陸路を海路を進み。

 皆と共にようやくここまで来たのに――無駄足だったのだろうか。



「おいマーロウ。今回は撤収するぞ」


 相棒の言葉に――これまで協力してきた皆の姿を順に眺める。

 相棒も、ユニィも。船長を始めとした船員達も――ついでにトリサンも。

 そういや、サギリは何もしてないな――


『――って、お前何やってんだ?』


 脚元を見ながら、首を大きく傾けているサギリに。

 思わず声を掛ける。


『――え? ああ。何だか()()()。どこかで見たことあると思っただけよ』


 サギリの脚元には、先ほどトリサンが寄こした「旨ぇ魚」が転がっていた。

 何を呑気な――と言いかけて。

 違和感に気付き、俺は『インスペクト』の術を起動する。


 この魚は――そうか。


 確かに感じる過剰な『力』。

 それはつまり、この魚は()()()()()()()ということを意味している。


 ――そして。

 ああ、俺も覚えている。

 この魚は――かつて、リーフェがお土産とか言って獲って来た魚と同じ。


 そう、確かその場所は――ネザレ湿原。


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