251.海底に見えたもの
深く。深く。
徐々に水面より届く光が衰え、闇がその色を濃くしてゆく。
船員達も二度目ともなると慣れたもので、潜り始めこそ軽く騒いでいたものの。
先日と同じ術と分かるや否や、暗闇に備えてかがり火に火を灯す余裕を見せ、今は皆完全に落ち着いた様子で周囲を警戒している。
『なあ。喪失感とか感じないか?』
『――は? 何言ってんのよ。意味が分からないんだけど』
相変わらずの口の悪さだが――どうやら、今回は本当に意味が分かっていないようだ。
――喪失感じゃ通じないのか?
『術を使うときに冷たく感じるだろ? アレだよアレ。『力』を一点に集める過程で、感じる感覚だよ』
正確には『力』を集約した結果、『力』の失われた部位で感じる感覚なんだが――そんなことを言うと、余計に混乱しそうなので黙っておく。
『――お前にもユニィの感情が伝わってくるんだろ?』
『当然よ――ああ。そういうことね』
どうやら――ようやく俺の言いたいことを理解してくれたようだ。
俺の推定が正しければ、遺跡に近付けばユニィの――
『痛ってぇな。何しやがんだ!』
『何してんのはこっちのセリフよ。ユニィを、そんな遺跡捜索の道具みたいに扱ってんじゃないわよ!』
――ん? サギリの言葉に、何やら今の話が誤解されている事を理解した。
ここは、誤解を解いておく必要があるだろう。
『そいつは誤解だぞ』
ゆっくりと。
分かりやすく、聞き取りやすく語る。
『遺跡捜索じゃない。遺跡の万能鍵として扱って――』
――――なぜか、甲板の端から端まで吹っ飛ばされた。解せない。
『海底に着いたぞ』
トリサンの声に我に返る。
どうやら、一瞬記憶が飛んでいたらしい。
とっさにユニィに目をやるが――これと言って変わった様子は見られない。
ユニィのそばに付いていた相棒にも目をやったが、首を左右に振って返された。
――恐らく遺跡からは離れているのだろう。
少し拍子抜け感を感じながら、船の外側の景色を見渡して――俺は一つの間違いに気付いた。
周囲に広がる石群と、目前で光を放ちながら水を噴き上げる祭壇。その光景を目の当たりにして。




