250.優先すべきこと
まだしばらく短めとなります。
その場所は――静かな場所だった。
風は止み、うねりも細波もなく。
音を立てているのは俺達だけ。
――そう。
不自然なまでに凪いだ場所。
それが例の地図の指し示していた場所。
西の海の海底遺跡。
船の上からぐるりと周囲を見回してみたが、目印になりそうな物さえない。
一体、どうやってこの場所を探し出して地図に記すことができたのか。
気になるところだが――今は他に優先すべきことがある。
俺は首を振り、次々に湧き上がる興味を振り払った。
「何か感じるかい?」
「いいえ。何も」
相棒とユニィの会話を聞きながら、こちらでも話を進める。
『おい。トリ何とか』
『いい加減に覚えろよ。トリムだよ。トリム。まぁトリムさんと呼べよ』
――ああ。そう言えばそんな名前だったな。
『そうか。しゃーないな。例の『ヴォイド』とかいう術を使ってくれ、トリサン』
『――お前。わざとだろ』
――何だ違うのか?
すまんが、この頭。
興味のない事は最低限しか覚えようとしないんだ。
それよりも――
『つまらない事は、とりあえず置いておいて――だ』
『おい――』
トリサンが何か言い掛けたが、つまらなそうなので無視して話を続ける。
『術を使ったら、海底まで潜ってくれトリサン。ああ、そうだ。この辺りは水深何mだ?』
『深さ120~150mってところだな。周りと比べると少し浅く――いや、言っても意味ないな。お前人の話聞いてないんだろ? どうせ』
そうか100mは超えているのか――遺跡がユニィのスキルに反応しない理由は、水深かもしれねーな。
距離が離れるからなのか、間に水があるからなのか。それとも両方か。
そいつは分からないが――少なくとも、近付いていけば何等かの変化が起こるだろう。
ということで。
さぁ、早く術を起動してくれ。トリサン――
――――ん?
『おい。早く『ヴォイド』の術を使えっつっただろ? それとももう疲れたのか?』
『――――わーったよ。面倒くせぇけど、ここまで来たらやらざるを得ねぇしな。行くぞ『ヴォイド』』
――ようやく使ったか。ワガママばかりで本当に困った奴だ。
術が起動してから。
さほどの時間を置かず、船が空気の球体を纏って再びゆっくりと沈み始める。
――そういや、今から潜ること言ってなかった気がするな。まぁ、仕方ないが。
俺は、再び首を振って不要な思考を振り払うと。
ユニィの様子に変化が無いか観察しながら、海底に辿り着くその時を待っていた。




