248.暗闇の世界
目前に突如現われる巨大な魚の群れ。
脚元に漂うのは光放つ何か。
頭上を見上げても日の光はほとんど感じられない。
船を囲う空気の球体の外。
それは船のかがり火が無ければ手元すら見えないであろう、見渡す限りの暗闇の世界だった。
『そんな得意気な顔――あんた――どこ――たのよ。ちゃんと――』
『――メシだメ――だいた――な事聞いて――ってぇな!』
何だか、背後が騒がしい気がするが――漏れ聞こえる言葉から察するに、またどうでも良い事だろう。
――それよりも。
「おい、マーロウ。どれぐらい視たんだ?」
『ああ――100は下らんな』
「ああ、私もそのぐらいだ。それにしても――これは驚きだな。――おっと。また来たか」
会話を続けながらも、俺達は周囲に。
暗闇たる球体の外側に――目を凝らし続ける。
当然だが。傍らの相棒の瞳は、薄暗がりの中でも分かるほどに青く染まっている。
そして傍から見た俺も、同じ状態なのだろう。
ふたり揃ってこの状態で何か呟いている――恐らく、客観的に見るとかなり怪しいはずだ。
だが――
「私も長年船を操ってきたのですが、水中を進むのは初めての体験ですよ。ましてや深海なんて」
そんな雰囲気にも流されず、俺達に会話を試みる人物が居た。
俺は渋々ながらも声がした方に振り返る。
――振り返った先。見覚えのあるその顔はこの船の船長だった。
潜航して以降は、球体の動きに合わせて自動的に船が移動している。
つまりは――他の船員と共にやることがなくなり、暇を持て余しているのだ。
――だからと言って、わざわざ今の俺達の会話に割り込んでくるのはどうかと思うが。
『おい船長。ひとの話に割って入らないでくれないか?』
思わず抗議の声を上げたが――船長は無言。
ということは――やはり、俺の声は聞こえていないということか。
最近、俺達脚竜族の声を聞き取れる人族とばかり話していたので感覚が麻痺し掛けているが、普通はこっちの反応だからな。
「同感ですね。ほら、そこの光が見えますか? あの光、魚が出しているんです。この光届かない深海で、餌を取る為。あるいは身を隠すため。理由は様々ですが体を光らせることで生き延びてきたんでしょう」
相棒が話を合わせて、深海の生物の解説を始める。
いつもながら――聞いていて面白い。
相棒の解説に耳を傾けながら――俺は球体の外に視線を戻した。




