247.真実かそれとも
今回も少し短め。
しばらく短めになるかもしれません。
見渡す限りの水平線。
陸から離れたからか鳥の姿も見えず、ただ形を変える水面だけがそこに変化を与えている。
「何か面白い物でも見えたか?」
そんな中。
ただひたすら船の進む先を見つめていた俺の、背後から声が掛かる。
『いや――ただ』
俺は前を向いたまま答えた。
『このまま西へ、西の果てへ進んだら――本当に東の果てに辿り着くのか。そう考えててな』
「世界は円環だからな。そうなるだろう」
首を振りながら、相棒に向き直る。
それは、そうだけどな――
『それって、真実か?』
「測量と星見の結果から導いた答えだ。間違いはない――が、そういう意味じゃなさそうだな」
相棒の言葉に頷きだけを返すと、再び前を向いた。
世界の形――昔から世界は円環だと知られていた。
「世界の東西は果ての果てで繋がり、南北に向かうと世界の中心に向かって落ちてしまう」という、誰でも知っている有名な話だ。
相棒の言う通り、30年ほど前にそれが正しいという事は証明されたんだが――実のところ。
誰も世界を一周したことはない。誰も世界から落ちたことは――いやこれは当然か。
――一方で。
各地には、行けないはずの世界の裏側に行ったというひとびとの伝承が残っている。
中には妄想としか思えないような話もあるが――共通するのは、空の光る帯。その言葉だ。
先日の旅でも、いくつかの集落の脚竜族の記録の中にそのような話が現れていた。
何より――脚竜族の祖と言われている脚竜の伝承にも、似たような話がある。
何が真実で何が誤り――もしくは偽りなのか。
良く考えなければ――
「まぁ、そんなに深く考えるなとは私には言えないが――たまには何も考えなくとも良いのではないか? ほら――彼女みたいに」
――ああ。また考え込んでしまっていたようだ。
そうだな。たまには何も――何も考えないことも必要だな。
相棒の示す先。
狭い甲板上でぐるぐると回るサギリとそれを止めようとする船員を眺めながら、相棒の言葉を反芻する。
そうして浮かんできたのは――親友の顔。
――いや。
たまには――といわれても、流石にあれは俺には無理だな。
そう結論付けた俺の耳に――騒ぎ声が聞こえた。
「見えたぞっ! 西回風だ」
「帆をたため!」「そんなとこでサボってんじゃねぇ!」
俄かに慌ただしくなる船上。
再び前を見るが、俺の目には何やら雲が掛かっているだけにしか見えない。
だが――経験を積んだ船員達にとっては違いが判るんだろう。
やがて――俺の目にも、広がる壁のような暗い色の雲が見えてきて――
――ってか、あのトリ何とかの野郎。
そろそろ術を使うタイミングだってのに、あいつは一体何やってんだ?




