241.その理由
『は? 2週間以上? 何言ってるのよ』
不必要に大きいサギリの声が、耳の中で反響している。
俺達は、港から滞在中の鑑定屋の屋敷に戻り、今後の方針について話し合ってたんだが――これだ。
――他竜の耳の近くでそんなデカい声出すんじゃねえよ。
反射的に顔を睨みつけた――が、まぁ睨んだところで気付きもしないだろう。
「そんな事を私に言われても困るのだが」
詰め寄られている相棒に僅かにだけ同情する。
あれほど激しく詰め寄られていたら、鬱陶しくなるだろう。
俺なら誰かに押し付けて、さっさと逃げるがな。
そう思いながら溜息交じりに眺めていたんだが――アホくせ。
少しばかり嬉しそうな相棒の顔を見て、僅かでも同情したことを後悔した。
そして同時に俺も――逃げ遅れていたことを悟る。
『マーロウ。あんたも暗い顔してないで少しは考えなさいよ。ほら。所詮風なんだから、何か方法があるでしょ? 空術で対抗するとか、あのノロマを竜柱にしてその隙に抜けるとか』
――必死なのはわかるんだが、ちょっと無茶苦茶じゃねぇか?
大体、竜柱ってなんだよ竜柱って。
真竜族相手とかならともかく、自然現象だぞ? そんなもの無駄に決まってるだろ。
百歩譲って神様相手に祈るにしろ、竜を供えちゃ駄目だろ。竜を。
――だが。
ああ。
良い事言うじゃねぇか。
無茶苦茶に思える話だからこそ。
何とかできねぇか――それを考えるのは面白い。
『そうだな。少しは考えてみるか』
そう口にしながらも、既に。
俺の意識は――この場には存在しなかった。
――――――
――整理して考えてみる。
まずは、今直面している問題。
その定義からだ。
自明なようでいて、これを読み間違えると結論さえも変わってしまう。
ここを疎かにするつもりはない。
では今の問題。それは何か。
それは「船が2週間出航できないこと」。
――さらに言えば「その2週間の遅れを許容できない」ことだ。
そして次に、それらの理由を原因を考え整理する。
自明なようにも思えるが、ここも見落としを避けるために一から整理する。
まずは「船が2週間出航できないこと」。
その理由は何か。
当然。
直接の原因は「西回風が西の海に落ちてくる」ことだ。
では――なぜそれが出航できないことにつながるのか?
一つはもちろん「激しい下降気流が発生する」。
そして「下降気流の風圧がデカすぎる」。
さらには「風圧に船が耐えられない」。
あとは――「船員がビビっている」。
この辺りがその要因だろう。
次。もう一つの「その2週間の遅れを許容できない」。
そもそもこの問題をクリアできれば、何もせずとも待っているだけで解決する話。
では、許容できない。その理由は何か。
リーフェの奴が危機に陥っているから?
――いや違う。
あいつは至ってのんびりしたものだ。昨日も、魚が旨いとか呑気な事を報告してきやがった。
それでは、路銀が底を突く?
――それも無い。
今俺達は鑑定屋の屋敷に滞在している。宿泊費代わりに少し『インスペクト』を使う必要はあるが、こと費用面に関してはどうこういう話は無いだろう。
とするとやはり――「俺達が待っていられない」。
これしかないだろう。
リーフェに早く会いたいユニィ。
待つ事が耐えられないサギリ。
そして俺も――
――そうだな。こんな面白い事、いつまでも我慢できるわけがねぇ。
こっちの問題を解決する方法は、どうやら一つしかなさそうだ。




